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車は少し距離はあるものの、店の出入り口から見える位置に停めていた。
彼女と私は数メートルの距離を保ちながら先に行ったガクちゃんのいるところまで進んだ。
「……アイツは?」
彼女がガクちゃんに追いつくと、ガクちゃんは低い声で言った。
私は少し離れた位置でワンテンポ遅れて立ち止った。
「……知らない。帰ったんじゃないの?」
彼女は片腕を抱えてそっぽを向いて答えた。
語尾がわずかに震えていたのは怒りではないと私は思った。
「あの男、結婚してるだろ?」
ガクちゃんは静かに、けれど吐き捨てるように言った。
返事をしない彼女の視線は斜め下のアスファルトを見つめたままだ。
「お前と会うのに指輪も外さないで、こんな事態になったらお前を置いて帰るような奴だぞ? 何やってんだよ」
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