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私のすぐ隣で鶏のモモ肉を手にした若い女性が後ろにいる男性に声をかけていた。
「飯なら外で食べればいいだろ? もういいからここを出よう」
女性のテンションとは打って変わって、男性はどこか忙しなく落ち着きがない。
見たところ、男性のほうが女性よりも随分歳が上のようだ。
「私だってたまには料理したいの」
「料理って、どこでするつもりなんだ?」
「おうち」
「冗談言うなよ」
聞くつもりなどないのに聞こえてしまう短い会話のやり取りで、目の前の二人がわけありの関係だと容易に想像できた。
私は聞こえないフリをしたまま顔を合わせないように小さめの豚バラ肉のパックを手にして通路を振り返った。
ガクちゃんは少し離れたところまで来ており、
私は近づいてくるカゴの中身を見ながら「ビール買い過ぎ」と、笑って見せた。
けれど、ゆっくりとこちらにやってくる彼からは
……笑顔は返ってこなかった。
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