それぞれの一日

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ドアを開けると、いつもは迎えてくれる部屋の明かりはなく、部屋の中は暗く静まり返っていた。 後ろ手にドアを閉め、玄関の明かりをつけると、その明かりが奥のリビングまで伸びた。 俺は靴を脱いで部屋に上がった。 音を立てないよう、やや緊張しながらカコのそばまで来ると、彼女は着替えもしないでうつ伏せで眠っていた。 シーツには彼女が握りしめた名残があった。 俺はシーツの皺を見つめ、カコに布団を掛け直すと、そのままベッドの脇に胡坐をかいて座った。 何かがあったことは確かだが、彼女が今ここにいることに心から安堵した。 数秒が数分になり、俺は彼女を見つめ続けた。 部屋の中には金魚に酸素を送るモーターの低い振動音だけしかしない。 この音をこんなにも明瞭に聞いたのは初めてだった。 耳を澄ませばポンプから吐き出された酸素の気泡が水面で弾ける音でさえも聞くことができた。
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