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ガクちゃんは私の言葉に押し黙った。
それでいい。
彼が今、彼の父親のことを嫌いでも、憎んでいても、
自ら縁を切るなんて絶対にしてもらいたくはない。
私が彼と一緒にいることは
彼に何かを与えるどころか、
何かを奪ってしまうことにしかならないのだ。
店内の他の客の話し声は私たちにとっては雑音のように耳をかすめるだけだった。
私たちの空気を察したおかみさんは二人の前の瓶ビールが空になっても声をかけずに他の客と談笑しながら洗い物をしている。
彼女の優しさが身に染みて、同時に彼女が先程見せた笑顔に申し訳なくなった。
おかみさん……ごめんね。
私は心の中で彼女に頭を下げた。
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