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誰もいない部屋では金魚の泡(アブク)の音が私たちを迎えた。
私が玄関の電気をつけると同時にガクちゃんが私を背中から抱きしめた。
「ガクちゃん……」
「カコ……」
私が彼を呼ぶと、彼も耳元で私を呼んだ。
「カコ……苦しかったろ? 何にも聞いてやれなくてごめん……」
「どうしてガクちゃんが謝るの? 言わなかったのは私だよ」
「そうさせたのは俺だ」
「違うよ。違う……」
私は彼の腕の中で何度も首を振った。
「カコ、他にもあるだろ?」
「他にって……」
「俺に言ってないこと。ずっと言いたくて言えなかったこと」
彼の腕に力が入った。
「そんなの……ないよ」
私は俯いたまま再び首を左右に振った。
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