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 「は? は? なに? 茂くん? なんつった? は? 山童? は?」  「ぐっがっごっ」  笑顔。  笑顔でハヅキはシゲルの胸倉を掴んで捻りあげていた。  「「――――――」」  リョウもミホリも止めることができない。  「茂くん。説明。ほら。はやく。説明」  ハヅキは笑顔である。しかし、その眼は見開かれており、瞳孔も開いている。  本能的な恐怖が、シゲルの舌を回させた。  「あっ、がっ、違くてっ、山姥ってっ、山女のことだからっ、それでっ、山童って、山男のことだからっ」  そこまで聞いて、ハヅキは胡散臭げにシゲルを開放する。  「ややや、山姥の別名に山女というってのがあるんだよ! それでね! 山童にも別名があって、それが山男っていうんだ! この山女と山男っていう妖怪は、夫婦の妖怪として描かれるんだって! いや聞いただけ! 聞いただけだから本当かは知らない!!」  解放された瞬間に、シゲルは涙目になって必死に説明をする。  生まれて初めて、腰が抜けそうになるほどの怖い思いを、彼はしていた。  「………………………ふーーーん。そうなんだ」  先ほどとは打って変わって静かにハヅキがそう言う。シゲルを眺める彼女の目はすっかり据わっていた。  「あ、私、用事を思い出したわー。ごめんね。私帰るー」  突然そう言うと、ハヅキはランドセルを片手に持つと背負う暇も惜しいかのように駆け出した。教室を出る際に、振り返って教室内に手を振ってくる。  「急にごめんねっ。この埋め合わせはまた!」  その言葉の後には、廊下を物凄い勢いで駆けていく音だけが聞こえた。
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