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その日、家に帰ると、親父が庭で壁打ちをしていた。
僕を待っていたようで、僕の足音がするとすぐに振り返り、おかえり、と言った。
「ただいま」
「ちょっと、聞きたいことがあるんだが」
神妙な面持ちに、僕の心臓が汗をかいた。
「何?」
僕は何気ない風を装った。
親父が、僕に向かってボールを投げる。
僕は素手でキャッチして、投げ返した。
久しぶりの親父とのキャッチボール。
「疑ってるわけじゃないんだけどな。
羅夢、あの日、ストーブの扉を開けなかったか?」
内臓が凍った。
親父が僕に投げる。
無言でキャッチすると、「開けたよな。見てた。お前から言いだすのも待ってたんだが」と親父が言った。「投げ返せよ」
僕は少し力を入れて投げ返した。
「怒る?」
親父は、キャッチしたボールを投げずに俯くように見つめた。そして僕に近づいてきた。
「お前がわざとやったなら、父さんの責任だ」
僕は、胸がどきっとして息が詰まった。
「寂しい思いさせたな。毎晩、記者に質問されるし、ご飯も作らせてしまって。
……あの友だち、本当は仲良くないんだろう。
賢人くん以外。賢人くんも共犯かな」
「違う!賢人は関係ない!」
とっさに言った途端、終わった、と思った。自分でも情けないくらい、涙が溢れた。
「やっぱり、そうだったんだな……。
お前にそんなことをさせてしまって、すまない」
親父が泣きじゃくる僕を抱きしめた。
僕は、ごめんなさい、ごめんなさいと、喘ぎながら言った。
--羅夢はまだ、小6だ。
親父の腕の中で、親父が言った意味を考える。
まだ小6だから、間違いをおかした?
まだ小6だから、責任能力がない?
まだ小6だから、やり直せる?
全部あっているかもしれない。自分の不甲斐なさを認めるのが、こんなに悔しくて悲しいのだと知った。
僕はまだまだ、ラム酒のような、深みのある人間にはほど遠い。
名前に相応しくない。テレビドラマに出てくる脇役の犯人と一緒だ。
こんなこと、もう二度としない。
そう誓った。
僕はしばらく泣きじゃくり、久しぶりの親父の体温に、全てを預けていた。
-FIN-
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