親父

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息を切らし、外の新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込み、僕らは中庭の芝生に倒れこんだ。 冷気が汗をひやし、しばらくみんな無言だったが、田中が息を切らしながら僕をじっと見つめたかと思うと、「ありがとう」と言った。 島村も泣きながら、松本もぶっきらぼうに僕にお礼を言った。 「いいんだ。当たり前だろ」 そう言った僕に、賢人はグータッチをした。 * 消防隊が駆けつける頃には、店の炎は親父と従業員たちがほとんど鎮火させていた。 発見が早かったのと、ホースと蛇口が多くあったことが幸いした。 店の半分は焼け焦げた。 当然店はしばらく閉店、2号店の開店も先送りになった。 けれど親父はけろっとしている。 「いやあ、最悪の事態だけど店の修理とその間の生活費は賄えるくらいの貯金はあるし、2号店は先送りになったが、俺もちょっとは休息が必要だったってことかな」 焼け焦げを見上げながら、僕の頭に大きな手を乗せる。 「羅夢との時間も増えるしな」 嬉しくないと言えば嘘になる。 久しぶりに感じる親父の手は温かかった。 学校での、岡田たちトリオの態度も変わった。 あの火事以来、僕をからかうことをやめたどころが、ちょっと優しくなった。 給食で箸を忘れたら割り箸をくれたり、下校準備のときにランドセルを持ってきてくれたりとその程度だけど。 借りを作りっぱなしは嫌だ、という態度にも見えなくはないが、もう二度といびられることはないだろう。 僕には十分だった。 僕へのいびりを辞めた一番の決定打は、やっぱり警察からトリオをかばったことだろう。 警察は、トリオが学校で僕をけなしていたことを聞き込みで知っていた。さらにあの火事の日、その場にいた全員が事情聴取を受けたとき、島村のポケットにガムの包み紙と乾電池が入っていたことで、警察は島村といつも一緒にいる岡田、松本、一緒にいたのはその日だけだが賢人にも放火の疑いをかけた。 銀紙を細くして乾電池の両端をつなげば、簡単に発火する。 当然、島村はそんなこと知らないと、ベソをかきながら訴えた。 僕は、島村はそんなことできるやつじゃない、遠くから見ていたけど、誰も怪しい動きをした人はいなかった、と証言した。 親父も、賢人とトリオは来てすぐにイートインの方へ入ったと証言した。 警察は最終的に、放火ではなく薪ストーブの近くの可燃物に飛び火した事故だったと判断した。
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