僕のラム酒的な生活

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「お前んちの店、またテレビ出てたな」 岡田が授業中、口の動きだけで話しかけてきた。 社会の授業がつまらなすぎて、先生が黒板を向いた瞬間に僕イビリが始まるのはお決まりだった。 別の角度から島村が紙を投げてくる。 島村はいつもガムを噛んでいるから、用済みのガムを包んだ銀紙かと思ったが、何か書いた手紙のようだった。 くしゃくしゃに丸まった紙を広げると、子羊が下手なお菓子の絵に囲まれて泣いている落書きがあった。 「ドキュンネーム」とか「キラキラネーム」、僕の名前はそういう類のものだ。 阿修羅の羅に夢と書いて「羅夢(らむ)」。 パティスリーの親父がつけた名前だ。 最近立ち上げた店は全国の何とかコンテストで受賞して以来、店にテレビの取材が絶えない。 ーーー ラム酒は風味豊かな香りと深みのある味わいで、お菓子づくりには欠かせない。 お前も深みのある人間になって、社会に欠かせない一員となれ。 父にそう言われるたび、僕はただの脇役じゃないか、と胸の中で悪態をつく。 それに、島村が書いている子羊のラムとは別物だし。 「今度、こいつんちの店の試食、全部食い荒らしに行こうぜ」 岡田と島村といつも一緒にいる松本がひそひそと言い、岡田と島村は「賛成」とにやにやした。 「こらっ、羅夢くん。授業中に手紙を回すのはだめだったよね?」 社会の先生が、手に紙を持った僕を見つけて睨む。 「違うんです、先生。島村たちが一方的に投げつけてきたんだよ」 後ろの席にいた、賢人が声をあげた。 先生はちょっと眉を釣り上げて、「あら、そうなの?」と言った。 「てっきり、ご実家が有名になってのぼせ上がってるのかと思ったわ」 僕は頭に血が上ったが、賢人が後ろから僕の腕を抑えてささやいた。 「がまんだよ」 * 僕と賢人が意気投合したのは4年生の時からで、たんに帰り道が一緒だったから、という理由だけではない。 彼は名前の通り賢くて、信頼のおけるやつだった。 「じゃあな。岡田たちのことは気にすんな」 家の前で別れる時、賢人が言った。 「わかってるよ。じゃあな」
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