3人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前んちの店、またテレビ出てたな」
岡田が授業中、口の動きだけで話しかけてきた。
社会の授業がつまらなすぎて、先生が黒板を向いた瞬間に僕イビリが始まるのはお決まりだった。
別の角度から島村が紙を投げてくる。
島村はいつもガムを噛んでいるから、用済みのガムを包んだ銀紙かと思ったが、何か書いた手紙のようだった。
くしゃくしゃに丸まった紙を広げると、子羊が下手なお菓子の絵に囲まれて泣いている落書きがあった。
「ドキュンネーム」とか「キラキラネーム」、僕の名前はそういう類のものだ。
阿修羅の羅に夢と書いて「羅夢(らむ)」。
パティスリーの親父がつけた名前だ。
最近立ち上げた店は全国の何とかコンテストで受賞して以来、店にテレビの取材が絶えない。
ーーー
ラム酒は風味豊かな香りと深みのある味わいで、お菓子づくりには欠かせない。
お前も深みのある人間になって、社会に欠かせない一員となれ。
父にそう言われるたび、僕はただの脇役じゃないか、と胸の中で悪態をつく。
それに、島村が書いている子羊のラムとは別物だし。
「今度、こいつんちの店の試食、全部食い荒らしに行こうぜ」
岡田と島村といつも一緒にいる松本がひそひそと言い、岡田と島村は「賛成」とにやにやした。
「こらっ、羅夢くん。授業中に手紙を回すのはだめだったよね?」
社会の先生が、手に紙を持った僕を見つけて睨む。
「違うんです、先生。島村たちが一方的に投げつけてきたんだよ」
後ろの席にいた、賢人が声をあげた。
先生はちょっと眉を釣り上げて、「あら、そうなの?」と言った。
「てっきり、ご実家が有名になってのぼせ上がってるのかと思ったわ」
僕は頭に血が上ったが、賢人が後ろから僕の腕を抑えてささやいた。
「がまんだよ」
*
僕と賢人が意気投合したのは4年生の時からで、たんに帰り道が一緒だったから、という理由だけではない。
彼は名前の通り賢くて、信頼のおけるやつだった。
「じゃあな。岡田たちのことは気にすんな」
家の前で別れる時、賢人が言った。
「わかってるよ。じゃあな」
最初のコメントを投稿しよう!