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家は、親父の店を奥まで抜けたところにある。
毎日店の中を通ろうとするたび、テレビや雑誌の記者に話しかけられる。
僕、何歳?お名前は?
羅夢って言うんですよ、と得意げに親父が答える前に、いかに早く家に入れるかに挑戦することが日課みたいになった。
「おお、羅夢、おかえり」
店の厨房の前を横切ろうとする僕に、親父が言った。
「ちょっと話があるんだ、中庭に来いよ」
親父に言われて、僕は店と家の間の中庭に立った。今はゴミバケツばかりだが、昔は野球ボールとかミットが転がっていて、親父と2人でキャッチボールをしていた場所。
「2号店を出すんだ」
親父が僕の前にしゃがんで、誇らしげに言う。
「お父さん、もっともっと忙しくなる。お前には苦労をかけるかもしれないけど、お前なら大丈夫だよな?」
もう、キャッチボールがしたいなんて幼稚なことは言わない。
「いいよ、別に。今まで通り晩ご飯作るだけでしょ」
「頼りになるなあ、お前は。名前負けしてないぞ」
当て字だけどな。親父は笑って僕の頭に手を置いた。
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