3人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
家にも、学校にも居場所はない。
親父は、僕が将来パティスリーになることが当然のことのように考えていた。
「男のくせに、お菓子作りだってよ」
野球とかサッカーとかゲームにしか興味のない岡田・島村・松本のトリオは、そうやって僕をからかう。
時代遅れの偏見、しかも僕はパティスリーになる気は毛頭ない。
化学の研究ができる大学に進学したいのだ。
唯一話が噛み合うのは、賢人だけだった。
「暗い顔して、あのあとなんかあったの?」
朝登校すると、先に来ていた賢人が聞いた。
「親父、2号店出すからもっと忙しくなるんだってよ。何とかコンテストの話題が落ち着いたら、みんなウチのこと忘れて普通に生活できると思ったのに」
僕はランドセルを無造作に机に置き、椅子を跨いで賢人と向かい合った。
「また成功したら有名になって、あいつらにからかわれて。僕は毎晩晩ご飯作って。教師にも嫌味言われて……」
ため息が出た。
「疲れた……、もうイヤだ……」
「俺がいるじゃん」
賢人が背もたれに寄りかかりながら言った。
「なんだよ、カッコつけて」
「俺たち2人いれば、なんだってできるよ」
僕と賢人の成績はトップだ。
確かに賢人にそう言われれば、そんな気もする。
小6とは、少しずつ大人に近づき始めて、世の中のことがほんのちょっぴり分かり始めて、万能な気がしてくる危険な年頃なのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!