裏切り

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家にも、学校にも居場所はない。 親父は、僕が将来パティスリーになることが当然のことのように考えていた。 「男のくせに、お菓子作りだってよ」 野球とかサッカーとかゲームにしか興味のない岡田・島村・松本のトリオは、そうやって僕をからかう。 時代遅れの偏見、しかも僕はパティスリーになる気は毛頭ない。 化学の研究ができる大学に進学したいのだ。 唯一話が噛み合うのは、賢人だけだった。 「暗い顔して、あのあとなんかあったの?」 朝登校すると、先に来ていた賢人が聞いた。 「親父、2号店出すからもっと忙しくなるんだってよ。何とかコンテストの話題が落ち着いたら、みんなウチのこと忘れて普通に生活できると思ったのに」 僕はランドセルを無造作に机に置き、椅子を跨いで賢人と向かい合った。 「また成功したら有名になって、あいつらにからかわれて。僕は毎晩晩ご飯作って。教師にも嫌味言われて……」 ため息が出た。 「疲れた……、もうイヤだ……」 「俺がいるじゃん」 賢人が背もたれに寄りかかりながら言った。 「なんだよ、カッコつけて」 「俺たち2人いれば、なんだってできるよ」 僕と賢人の成績はトップだ。 確かに賢人にそう言われれば、そんな気もする。 小6とは、少しずつ大人に近づき始めて、世の中のことがほんのちょっぴり分かり始めて、万能な気がしてくる危険な年頃なのかもしれない。
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