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「賢人も行こうぜ、試食食い荒らしに」
「うん。行くなら今日だな」
岡田の提案に、賢人が乗っかる。
「月曜日でそんなに混まないし、今日はテレビの取材無いんだってよ。さっきあいつが言ってた」
「え、どうせならテレビに出たいじゃん」
島村が、不服そうに言う。
「いたずらしてるところを撮られてどうするんだよ」
「賢人の言う通りだよ。じゃ放課後、校庭集合な」
松本が言い、トリオはにやにやと僕のほうを見た。
*
僕が家に帰って、中庭で壁にボールを打ち付けていると、表から聞き覚えのある笑い声がした。
店の外壁をぐるっと回って表を覗くと、賢人が楽しそうに笑っていて、賢人とトリオは本当に店にやって来た。
「おじさん、こんにちはー」
元気よく愛想よく挨拶し、4人は店に入って行く。
「お、珍しい組み合わせだな。羅夢は奥にいるはずだぞ」
中から親父の声がする。
「僕、ここだよ」
外から入り口に近づくと、親父が「お友だち来てるぞ」と笑った。
親父の笑顔に、少し胸が疼く。
「お友だち、来ましたー」
トリオがバカっぽい笑いを浮かべた。
「早く食べよう」
賢人の声で、4人は店の中を散り散りになって、あれこれと試食に手を出し始めた。他にもお客さんが10人弱いて、マダムやビジネススーツを着た男性が多い印象だった。
図書館のような内装がそうさせるのだろう。
広い円形の店内は、壁際にパンやお菓子がずらりと並び、ところどころにハシゴがかかり、大人でも背が届かないくらい高い棚の上にはストックのジャム瓶が収められている。
洒落た薪ストーブのおかげで店内は暖かだった。
厨房と反対側の扉の向こうにもう一部屋あり、華奢なテーブルと椅子が数組置かれ、イートインができる。
僕は岡田、島村、松本、そして賢人を遠くから眺めた。
ほんとに家まで来て、食い散らかすとは。
この人たちは一体何がしたかったんだろう。
友だちというていで美味しいパンやお菓子を食べたい。はたまた客に迷惑をかけることで親父の店の評判を落としたい。もしくは、親父と僕の仲を壊したいのか。
4人は試食を好きなだけひっ掴み、イートインへ入るとがやがやと椅子に座った。
僕は盛大にため息をついた。
しばらく薪ストーブの前にしゃがみ、手を温めていた。とろとろと柔らかな火が薪を舐めている。
そしてあいつらが出てくる前にと、早々と厨房のほうに引っ込むことにした。
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