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<狂犬>は不敵に笑った。胸の真ん中からはとめどなく血が流れている。
<狂犬>はショットガンを棍棒でも使うかのように一振りした。これだけのダメージがあるというのに、信じられない事にショットガンは凄まじい風を切り、轟音を鳴らした。
うろたえたのはウェラーだ。ユージが間に入っているとはいえ、<狂犬>はすぐ目と鼻の先にいて、凄まじい貌でウェラーを睨んでいる。
……撲殺される……! 逃げればヤツは持っているショットガンを渾身の力で投げるだろう。凡そ4キロの鉄の塊だ。頭に当たれば死ぬ。
「FBI! なんとかしろ!! 俺を保護しろ!!」
「どうせ死ぬなら…… 1つでも…… マリアのため…… 排除する」
「止せ」
ユージは腰につけたヴァトスに手をかけた。だが<狂犬>の歩みは止まらない。
「おじさん! おじさんやめて!!」
マリアも何が起きるが悟り、叫ぶ。ウェラーの身の安全ではない。このまま進めば、ユージが<狂犬>を殺す。その事は自明の理だ。
だが、<狂犬>は足を止めなかった。
そして、<狂犬>はユージの攻撃射程圏内に入った。<狂犬>ほどの戦闘のプロならばその事は十分に理解している。これ以上進めばユージが動く。そのデッドラインを、<狂犬>は躊躇することなく踏み越えた。
「うおぉぉぉぉっっ!!」大きく振りかぶる<狂犬>。このまま振り下ろしウェラーの顔面を粉砕する。もしウェラーが逃げれば投げつけ殺す。最後の力を振り絞り、強くショットガンの銃口を握り締めた。
その瞬間、目にも留まらぬスピードでユージは腰のヴァトスを抜くと、発現した巨大な剣先を<狂犬>の胸板に突き入れた。
「…………っ!」
「うわぁぁぁっっ!!」
「キャーーーっ!!」
ウェラーとマリアの悲鳴が重なった。
刃渡り1m、幅40cmはある巨大な剣は、<狂犬>の胸から背中まで貫いた。貫かれた<狂犬>は振りかぶったショットガンを落とすと、これまでの行動が嘘のように静かにその場に崩れた。
素早くユージは<狂犬>からヴァトスの剣を抜く。特殊なブレードで血は一滴もついていない。巨大な刀身は、一瞬光ったかと思うと消え、柄の部分だけとなった。
終わった。
「ロックおじさんっ!! おじさんっ!! やだっ!! いやだよぉ! おじさんっ!」
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