「黒い天使」『災厄者』6話

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 倒れた<狂犬>に泣きじゃくりながら駆け寄るマリア。何度も揺らすが、<狂犬>は二度と動く事は無かった。マリアは動かなくなった<狂犬>に抱きつき、まるで子供のような泣き叫んだ。 「こいつの死も、お前のせいだ、ウェラー。罪には問われないが、この光景を永遠に忘れるな」  ユージの冷たく殺気の篭った言葉に、ウェラーは愕然とその場に凍りつく。  ユージはサクラを一瞥した。サクラは頷くと、静にマリアの後ろに立つと、彼女の頭を軽くポンっと叩いた。号泣していたマリアは一瞬の間の後、意識を失った。サクラが超能力で安全に気を失わせたのだ。  先までと打って変わり、場は急に不気味な沈黙に包まれた。  ユージはズボンのポケットから携帯電話を取り出す。相手は拓だ。外の様子と応援の有無が知りたかった。拓から上の話を聞き、ユージのほうも全て終わったと報告した。 「外、どうなってんの?」とユージに日本語で聞くサクラ。ユージはサクラを一瞥し、気を失っているマリアを見た。 「予想より火の燃え方は酷くない。本館のほうは消防が入っている。別館の入口のほうは拓が押さえた。応援は後10分で着くそうだ。その前にウェラーと女の子だけは連れ出す」 「仕事は終わり?」  ユージは、今度は倒れている<狂犬>と、頭を失ったラテンスキーの遺体を見た。 「捜査はな」そういうとユージは歩き出した。 「俺の仕事は、まだ後始末が残っている」 「…………」  やれやれ……まだサクラちゃんのサポートは必要か…… とサクラは虚空を見上げ嘆息する。ユージの作戦を全て聞いてしまった以上、サクラとしても最後まで付き合うしかないようだ。  午前3時47分。ジェームズ=ウェラーをFBI・NY支局が緊急逮捕。  同時刻、ウェラー邸にて身元不明の少女3人を保護。  ウェラー邸にて遺体全てが回収されたのは日が昇った午前10時31分であった。  ただ一人…… 大男であったと思われる男性遺体だけは延焼が酷く、骨まで焼かれ、何者であったかという識別は不可能であった。FBIと州警察は、遺体を正体不明のまま収容し、記録した。
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