「黒い天使」『災厄者』6話

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裏切り者であるラテンスキーが、ノコノコとこんなところに来るとは思えない。どういう利点があるのか…… 利に煩く用心深く、自分が何より大事な男だ。こんな危険な場所に来るような性格の男ではない。 「喜べ、<ヴォースィミ>。全て巧くいく。邪魔者を消したらな」ラテンスキーはロシア語で喋る。ウェラーには分からない。<マリア>は僅かに反応したがラテンスキーは無視した。 「お前が…… こんな危険な場所に来るなんて、驚きだ…… 逃げられないぞ」 「大丈夫だ。大金と安全が手に入る」  そういうとズボンのポケットから小さなリモコンを取り出した。そして不敵な笑みを浮かべ、そのボタンを押した。次の瞬間、秘密通路の奥で大きな爆発音が響き、何かが崩れる音が続いた。そして煙と埃が秘密部屋にも吹き込んで来る。 「これで、あの<死神捜査官>も終わりだ。知っているか<ヴォースィミ>。あの生意気な<死神>アジア人を殺せば、世界中のマフィアが諸手を上げて歓迎してくれる。2000万ドルは堅い」 「…………」 「さて、議員さん。今度はアンタだ」ラテンスキーは会話を英語に戻した。呼ばれたウェラーは目を剥く。その様子を見てラテンスキーは笑みを浮かべる。 「そんな顔しなくていい。これはアンタにとっていい話なんだぜ、上院議員サン」 「なんだと」 「アンタがムショに行かなくても済むようにしてやる。勿論マフィアから命を狙われる事もない」 「と……逃亡者になんぞなれんぞ! お前たちチンピラと違って私には体面がある」 「逃亡者にはならねぇー。俺もそこまで馬鹿じゃねぇ。俺たちは捕まるんだ。そして、堂々と裁判を受けて、堂々と自由になる」 「捕まるだと!?」 「今の爆発であの地下通路も使えねぇ。俺たちがここを出るには、当局に救助されるしかない。だがいいかい、議員サン。アンタにとって不利益な捜査官はさっきの爆発で生き埋めになったはずだ。後は細かい事情までは知らないFBIの捜査官が地上に一人…… こいつは今頃応援を呼んでいるだろう。消防だってやってくる。いくら何でもこの中を逃げるなんざ自殺行為だ。もう出口はないんだし、ここは静かに救助を待つのが得策よ」 「…………」  ラテンスキーの言っている意味が分からず困惑の色を浮かべるウェラー。ラテンスキーは得意気に、微笑む。
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