「黒い天使」『災厄者』6話

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「俺は俺の仕事をする。つまり、俺はロシアン・マフィアに口利きする。代わりに、アンタは俺のため優秀な弁護士先生をつける。こうして俺たちは、裁判で無罪を勝ち取り堂々と世間に出る……ってワケだ。理解できたかい議員先生よ」 「…………」  話は一応頭に入った。だがウェラーにはラテンスキーが何をしようとしているか分からない。  その時だった。ラテンスキーは腰に差した9ミリオートを素早く抜くと、<狂犬>の胸に向かって引き金を引いた。気配を察した<狂犬>はすぐに防御しようとしたが間に合わず、腕を貫通した弾は胸に刺さった。<狂犬>は無言でその場に倒れこむ。それを見た少女たちは悲鳴を上げ、マリアは眼を見開き立ち尽くした。  ラテンスキーは動かなくなった<狂犬>を見て、満足そうに笑った。 「これでアンタの罪を証言する厄介者が1つ消えた。さて、後残った厄介者はアンタの愛玩動物の、そこのガキ共だけだ」  そういうと、ラテンスキーは9ミリ拳銃をウェラーの足元に投げた。 「!? どういうことだ!?」 「アンタも手を汚すんだ。俺の前でそこにいるガキ共を撃ち殺せ。そうすりゃアンタは殺人犯だ。だが安心していい。現場を見たのは俺だけだ。つまり、アンタが俺を見捨てたり売ったりしなきゃ、俺も永遠に口を閉ざす。アンタは俺が化物男を撃ち殺すのを見た。そして俺はお前がガキを撃ち殺すのを見る。これで俺たちは運命共同体ってワケだ」 「…………」 「今更躊躇するこたぁねぇーだろ。元々アンタはその気だったはずだ。なぁーに、心配いらねぇー。撃った後指紋を拭いてその化物男に握らせれば捜査が及ぶ事はない。その化物男はFBIやNYPDが血眼になって探している大量殺戮者だ。殺しは全部ひっ被せればいい。さぁどうする?」 「お前に依頼する。お前が殺せ。それでいいだろう」 「駄目だ。この状況で口約束がアテになるか!? さっさとやれ! 議員先生なら度胸見せろ! アンタがやらねーならマフィアへの口利きもなしだぜ!?」 「くっ……」  ウェラーは戸惑いながら拳銃を握った。理屈は完全に理解した。確かにそれが最良の方法かもしれない。男のいう通り、この場にユージ=クロベはいない。今ここで少女たちを始末すれば物的証拠は完全に消えてなくなる。
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