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ラテンスキーの言うとおり、物的証拠がなくなれば、大物弁護士団ならば罪を掻き消す事ができるかもしれない。いや、証拠を全部擦り付ける相手がいるし、爆発で吹っ飛ばしたFBI捜査官は単なる事故で済む。
……この男の言う通りだ。俺は助かる! 助かる道がある!
「わ…… 分かった! 約束しよう。貴様も約束は守るだろうな!?」
「俺が化物男を撃ち殺したのをアンタは見たはずだぜ。約束どころか俺たちは運命共同体だ。早くしろよ!!」
「わ……分かった」
ウェラーは拳銃を握りなおし覚悟を決めた。弾を確認する。弾はしっかり3発しか残っていない。だから少女に使ってしまえば終わりだ。口封じにラテンスキーを撃つというブランは使えない。その瞬間、ウェラーも腹を括った。
ウェラーは立ち上がり、無言で銃口をマリアに向け、そして引き金を引いた。
その時だった。倒れていた<狂犬>が起き上がり、マリアの前に立ちはだかった。
「なっ!?」
「ぐぅっ!?」
背中に弾を受ける<狂犬>。そのショックで先程ラテンスキーから受けた傷から大量の血が噴出し、マリアの顔を鮮血が汚した。
「……おじ……さん?」
「な!? おいっ!! まだ生きているぞ!!」
「化物めっ!!」
ラテンスキーは転がっていたショットガンを掴み、背後から<狂犬>を殴打する。だが<狂犬>はまるで岩かと思うほどビクともしない。
「傷は……ない……か? マリア……」
そういうと、マリアの顔に飛び散った血を拭い、<狂犬>は微笑んだ。誰にも見せたことのない、素晴らしく優しい微笑だった。
その時、死んだマリアの瞳に、生気が宿った。
「……おじさん……? キャンディーの…… <ロックおじさん>……」
「そう……だ。今日は…… キャンディーはないが…… <ロック>のおじさんだ……」
マリアの記憶が、徐々に甦っていく。
最初の対面…… 安宿の一室で初めて出会った。最初はすごく怖かった。無理に笑顔を作った。無言で、体中ケガをしていて血の匂いがした。「何か歌え」と言われた。歌ったら、「良かった」と一言だけ言った。夜になった。どんな乱暴なことをされてもそれは生きるための仕事だった。だけど、何もなく「ゆっくりとベッドで休め」と言われた。自分の仕事をしようとすると、怒られた。「初めて怒られた」そういうと、ひどく哀しい顔をしたので、また歌を歌ってみた。
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