「黒い天使」『災厄者』6話

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 ユージは爆発物のスペシャリストで、爆発力を弱めるため爆薬を1/5まで減らし、かつ自分の防弾コートと防御力の強いサクラのジャケットで包んで爆発力をギリギリまで弱めた。自分たちはヴァトスの刃を最大まで大きくして盾にし、爆発のダメージを防いだ。 爆発を起こさせ、ラテンスキーを暴走させるのがユージの目的だった。爆発の直後にユージはヴァトスを使って防火シャッターを切り裂き外に出ていて途中から全て話を聞いていた。  そしてユージのラックトップは録音状態のままサクラが部屋に残してあった。二人の策謀は全て録音された。これでウェラーはどうやっても逃れられない。そしてもう1つの企みも巧く転がったようだ。マリアの記憶が戻った。 「えげつない事するよホント。ギリギリ、賭けもいいトコじゃん」とサクラは溜息をつく。もしラテンスキーがすぐに爆破ボタンを押していたらどうする気だったのか…… ちなみにサクラは爆発の瞬間ユージが盾になって庇ったので全くの無傷だ。が……父親なら当然だ、と思っているので感謝も感激もしていない。 「終わりだ。逮捕する」  ユージはそういうと、ウェラーが投げ捨てた9ミリ拳銃を、指紋がつかないようハンカチで包んで掴む。指紋がたっぷり付いた拳銃だ。これでウェラーはどうやっても言い逃れはできない。  ガックリと項垂れていたウェラーを、ユージは掴みあげようとした……その時だ。突然、近くに人の気配がして振り向く。 「……ゆる……さない……!」  そこに居たのは、<狂犬>だった。手にはさっきまで自分を殴打していたショットガンがある。  ……まだ動けるのか……!? ユージは正直心の中で舌を巻いた。  <狂犬>の瞳は完全に怒りに燃えている。ユージは彼の後ろに怯えているマリアを確認した。マリアにとって、ウェラーは恐怖と絶望の対象だ。 「止せ。もう終わりだ。武器を下ろせ、<狂犬>」 「マリアを泣かした……酷い事をした。あの男を…… 許すわけには……いかない…… あいつは生きている限りマリアを苦しめる」 「あんなクズを殺しても、マリアは喜ばないぞ」  ユージの言葉は警告だった。マリアは、と言ったが言外には「これ以上やればお前を殺さざるを得ない」という意味が含んでいる。通常の場合と違い、今のユージと<狂犬>では戦闘力の差は明確だ。一瞬でユージは<狂犬>を殺せる。 「俺は……どうせ長く……持たない」
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