学園刑事物語 電光石火 前編  

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学園刑事物語 電光石火 前編   第一章 星の王子  母親の葬儀を終えて、叔父が連れてきたのは、山の上の豪邸であった。  両脇に寺社のある細い道の先、更に細い路地を抜けると、大きな日本家屋があった。奥は山になっていて、まるで山も庭のように風景に溶け合った家であった。金持ちが住んでいるようだと顔を背けると、ここが、母が離婚する前まで住んでいた家だと紹介された。でも、俺には初めての家になる。  車窓の外に広がる景色は、見知らぬ地で、見知らぬ人が歩いている。  母子家庭で育ち、家族は母だけであった俺は、母を病気で失って、心の支えがなくなってしまった。これからは一人で生きるのだと決めていたのだが、未成年の悲しさで保護者が必要だという。  叔父が引き取ってくれると言ったが、転勤になり離島に行く。離島には小学校しかなく、俺が通える中学校が無かった。仕方なく、もう一人の母の弟を頼ろうとしたが、兄に会ってから決めろと断られてしまった。  そこで、離島に行く叔父は俺を、兄の住む天神区に連れてきた。  俺、印貢 弘武(おしずみ ひろむ)、中学一年、十二歳。すぐに誕生日で十三歳になる。そして、これから初めて兄という人に会う。  日本家屋の中に入ると、広い玄関が明るかった。スリッパで奥に進むと、中庭に面した和室に通された。中庭はいいが、どこか学校のグランドも思い出す。どうしてなのか分からないが、そんな雰囲気なのだ。  女性に呼ばれて、俺の兄という人が玄関からやってきた。先ほど路地を通ったが、その曲り口にあった江戸時代のような漢方薬局の主が兄になる。俺とは二十二歳離れているので、親子にも近い。  開けっ放しの襖の先には、縁側と庭があった。兄は足音もたてずに来ると、俺の横に胡坐をかいていた。 「正座を崩してもいいよ」  そう言われてももう遅い。足が痺れていた。 「もう足が痺れています。叔父が来たら、又、正座なので、このままで乗り切ります」  静かに二人で庭を見てしまった。スズメが降りてきては、何かを食べて去ってゆく。 「印貢君」 「はい」  兄といっても、母はこの家を飛びだして俺を産んだ。同じ母親であるが、俺はこの家の子供ではない。  母の亭主だった人は、既に亡くなっていた。だから、叔父も頼む気になったのであろう。 「この家に住む?」 「いいえ、住みません。他に部屋を探して、一人で暮らします」
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