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「中学の手続きはしておいたけど、一人で行ける?俺は手続きの後に、学校に挨拶には行ったしね」
地図は貰っていたので、どうにかなるだろう。
「大丈夫です」
それに、学校に行く気はなかった。今日は港に行ってみる。正規の仕事はないだろうが、雰囲気を見ておこうと思う。それから、繁華街を見てくるつもりであった。
「……学校に行かないつもりでしょ?」
どうして分かるのだと思ってから、俺は制服を着ていないと気が付いた。学校に行くのに、私服では確かに変だ。
「ここに帰って来る気もない……」
全ての荷物を自転車に括り付けているので、それも一目でわかる。
「とんでもない子を預かったかな……」
佳親は、季子にこのことがバレないようにと、そっと自転車を路地に運んだ。
佳親は俺の腕を掴むと、倉庫の三階の部屋へと戻す。
「まず、ここに住むには条件があります。学校に行きなさい」
「では、住みません」
佳親が、目を閉じた。
「叔父のいる島に送ります」
弱みに付け込んでくる。これは、口喧嘩では佳親に勝てそうにもない。
「……学校には行く。他には口出しするな」
そこで、頬を引っ張られた。
「目上には敬語を使用する!」
「先に生まれただけの人を、目上と言うのか?」
再び、頬を引っ張られていた。
「大家は目上!」
そうなのかもしれない。俺は、昔から口喧嘩に弱い。母にもよく、やり込められていた。
「返事!」
「はい……」
仕方なく制服に着替えて、しかも、寝袋など学校に必要のない物は取り上げられた。
「はい、学校に行く!」
「はい……」
天神の森の中を降りた方が早いというので、自転車ではなく徒歩になった。山を突っ切ると十五分で行けるという。
しかし、山を歩き始めて気が付いた。貰った地図は、普通の地図に赤ペンで説明されていた。ここの場所は、天神の森として一括りしか説明がない。
森の中を彷徨い、そもそも、ここには道が無いと気が付いた。地図が分からないどころではなく、道が無い。
「……迷子だ」
しかも、天神の森が結構広かった。方位磁石でもあればいいが、迷ってしまって方角が分からない。携帯電話も持っていないので、連絡する方法もない。
この道路地図を渡しておいて、山を通った方が近いと、どうして言えるのであろうか。中学が近所で慣れているので、忘れてしまっているのかもしれない。
「さっきと同じ場所かも……」
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