学園刑事物語 電光石火 前編  

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 同じ岩に辿り着いていた、かれこれ一時間は山の中を歩いている。 「疲れる……」  とにかく山を下れば、どこかに出るだろう。俺は山を下り始めて、木々の切れ目の先にグランドを見つけた。走っている生徒を見ると、中学生らしい。  でも、高いネットが森の方角にあった。もしかして野球場なのであろうか。球が山に行かないように、塀も高い。  塀を避けて迂回すると、かなり遠回りになる。既に遅刻であるが、これ以上は迷子になりたくない。折角見えているのだから、飛び越えて入ってしまおう。  そこで、山の木を仲介して、ネットの上を飛び越え、ワイヤーを校舎に飛ばして着地した。 「え、ここか……」  飛ばしたワイヤーで適当に着地してしまったが、着地したのはグランドの真ん中であった。  ワイヤーは、色々事情があって、常備持っている。屋根に上る時にも使用する。でも、今はそんな事情を説明することもできずに、グランドの真ん中に、空から落ちてきた状態になってしまった。  しかも、体育の授業の真っ最中だった。  グランドにいた全員の動きが、止まってしまっていた。  準備体操を終えて、これから野球をする所らしく、バットやグローブなどを運んでいたが、一瞬で空から落ちてきた俺を見て固まっていた。  慌てて先生が走って来ると、俺の前に立つ。 「君は誰?」 「今日、転校してきた印貢です。入口が分からなくて、ここに来ました」  入口が分からなくても、グランドには飛び降りないと、自分でも思う。 「そうか。次からは、門から入って。職員室は校舎の中だから」  先生は、あまり慌てていなかった。 「はい。すいませんでした」  しかし、今度は職員室が分からなくて迷子になってしまった。  この中学、英文字のHの形をした校舎であったのだ。そこに、渡り廊下や体育館が繋がり、複雑な形状になっていた。歩いていると、現在位置が分からなくなる。  おまけに、新校舎という建物まで連なり、全体的に分からない。 「帰りたい」  教室にも到着できずに、帰りたくなってしまった。  どこかの授業が終り、先生が迷子の俺を拾ってくれた。 「もう昼だよね。転校初日から遅刻か?もう少ししゃっきりとして生きろよ……」  嫌味はいいので、この校舎を爆破してもいい許可が欲しい。
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