学園刑事物語 電光石火 前編  

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 やっと職員室に辿り着くと、すっかりグランドの転校生で定着していた。色々な生徒がいるが、グランドの真ん中に降ってきたのは初めてだったそうだ。複雑な校舎なので、正門から入った玄関に地図が貼られているが、俺は隙間から入ってしまったらしい。 「印貢だっけ?四区じゃないのか。天神からここに来るのは珍しいぞ」  やっと担任が分かった。村多(むらた)という数学教師であった。多分、俺とは相性が悪い。 「一年A組だ。自分で机を選んで運んでおけよ」 「机のある場所は、用務員さんに聞けば分かりますか?」  村多は返事をしなかった。多分、机の在処など知らないのであろう。 「では、探してきます」  もう今日は疲れたので、これで帰ろう。職員室から玄関を探していると、又、迷子になってしまった。もう面倒なので、窓から出ることにする。  二階の窓を開けて、飛び降りようとすると下が駐車場になっていた。車の屋根に降りてしまったら、後でうるさそうだ。  窓を探していると、非常階段があった。でも、初志貫徹だと、グランド側の窓から地面に飛び降りる。  さて帰ろうかとすると、後ろに視線があった。無視していると、一階の窓が開いて声が聞こえてきた。 「……転校生、どこに行く気だ?」 「今日は疲れたので、帰る」  振り返りたくないが、開いた窓から誰か出て来た気がする。これは、逃げた方がいいのか。 「お前の教室ってそこなんだけど。少し寄っていかない?」  先生の方が、帰りたいのなら二度と来るななど、暴言を吐いていた。 「ここは四区で、先生は常に暴言を吐く。無法地帯で、学校でも校則なんてない。強い者に弱い者は従う、それだけ」  四区の基本ルールは、叔父から聞いていた。俺は、金銭の問題で、他の天神の子供と違い私立へは通えない。どんなに治安が悪くても、学区である公立の中学へ通う。 「では、先生をぶん殴ってもいいの?」 「……先生は進路という人質みたいなものを持っているよ」  それは、進学を前提にしているものだ。 「ま、関係ないや。もう来ない」  これから家出しよう。学校に行かなければ、叔父の所に送られてしまう。何もない島も困るが、施設も困る。なので、見つからない場所に隠れることにする。 「学校に来ないと、家を出されるのではないの?」  どうしてそれを知っているのか。俺は、やっと振り返った。 「あ、ハーフなの?それに、きれいで可愛い……」
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