君がくれた世界

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 こちらに向けられる彼の視線から意識を外そうと、ペットボトルの口を咥えて対岸の島へ眼を向ける。そして、 「……宮島の大鳥居(おおとりい)、まだライトアップしているんだね」  ああ、と村瀬さんが俺と同じ方向へ顔を向けると、 「今月一杯くらいはするんじゃないか?」  ふうん、と返事はしたものの、続く会話を見つけられない。せっかく隣にいるのに……。 「カズト、宮島へ初詣は行ったんか?」 「ああ、厳島(いつくしま)神社? ううん、行ってない」 「お前、もうすぐ大学受験じゃろう? そろそろ神頼みする時期なんじゃないんか?」  ははっ、とわざと小馬鹿にしたような笑い声を上げた。 「神頼みなんかしないよ。これでもクラスで成績はトップだし、実力で十分にオッケー」  ほんまか? と村瀬さんは笑いながら、 「ほいじゃあ、まだ、宮島には行ったことが無いんか?」 「うん。別に行きたいとも思ってないから。そうだ、今度、村瀬さんが連れて行ってよ」  ドキドキしながら思ったことを言ってみた。すると村瀬さんは、 「……俺も宮島にはあんまり足は向けたく無いんだよなあ」  ……それって俺と一緒に行くのがいやってこと?  その台詞を分析して落ち込む俺に、防波堤から降りた村瀬さんが、 「ほら、カズト。寒いけえ、もう帰るぞ」  波の音を背中に受けながら村瀬さんの後ろを歩く。目の前の肩幅の広い後ろ姿を見ながら、ほんとにいやになるな、と思った。  どうして俺はこの人を好きになっちゃったのかなあ。かわいい女の子だったら、ちょっと本気になれば簡単にゲット出来るかもしれないのに。  街灯で明るく照らされた駅舎の隣の駐輪場に着くと、そこには村瀬さんの大きなバイクが置いてあった。後部座席の後ろにあるキャリアボックスの蓋を開けると、 「カズト。寒いからこれを着とけ」 と、薄い雨合羽の上着を差し出してくれた。ガサガサとそれを着ていると、ヘルメットも渡してくれる。でもこれはちょっと不満なんだよなあ。 「ねえ、村瀬さん。いつになったら、この元カノのヘルメット、処分するの?」  キュキュキュンッ、と村瀬さんがバイクのエンジンをかけながら、ああっ? と聞き返してきた。ドルンッ、と体を振るわす重いエンジン音が静かな駐輪場に響き渡る。
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