君がくれた世界

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***  ぎゅっ――。  ううん、何だろう? なんで、こんなに体が動かないの?  ふぅっと瞼を開くとぼんやりと見慣れない天井が目に映る。しばらく、そのまま天井を見て耳元にかかる微かな風の方へ少し顔を傾けた。  隣では俺を抱きしめたまま、村瀬さんが寝息を立てている。  初めての彼の寝顔をじっくりと眺めてから、そお、とその手を外して上半身を起こした。鈍く痛む下半身に、ああ、昨夜の出来事は夢じゃなかったんだ、と安心した。  喉の渇きを覚えると、隣で寝ている村瀬さんを起こさないように、痛むお尻を庇いながらベッドを抜けだした。  寝室のドアも静かに閉めてキッチンへ向かうと、冷蔵庫から目についたジュースの缶を手にリビングを突き進んで、そのまま大きな窓の向こうの広いベランダに出てみた。  すごいな。この海の風景は、あの廿日市大橋から見る景色と同じだ。  目の前に広がる海の景色が茜に染まっていく。ベランダの手摺に体を凭れかけると、プルタブをカシッと開けて、明けゆく空を眺めたまま缶を口に持っていった。すると、 「こら。カズト」  にゅう、と伸びた腕が、あっという間に手の中の缶ジュースを奪って、そのまま背中越しに柔らかく抱きしめられた。 「これはダメ。お前、まだ未成年じゃろ? お前はこっち」  村瀬さんが苦笑いをしながら、代わりに手にしたお茶のペットボトルを渡してくれた。 「それ、グレープフルーツのジュースじゃないの?」 「馬鹿。これはチューハイじゃ」  奪った缶チューハイを口にしながら、村瀬さんは俺の髪に優しくキスをしてくれた。渡されたペットボトルのお茶を飲む俺に、 「カズト。体は大丈夫なんか? その……、昨夜は無茶させたし」 「うん。ちょっと痛いけど平気みたい。俺、村瀬さんより若いから回復早いんだよね」  苦笑いをした村瀬さんを振り向きざまに上目遣いに見上げた。そしてネコのようにすり寄って、今の気持ちを素直に言葉にした。 「ねえ。……また、してね」  みるみる顔を赤くした村瀬さんが、照れ隠しにチューハイを飲み干した。  海の方では、対岸の遠い島の山の稜線が淡く浮き上がって見えた。
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