君がくれた世界

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「なにするんだよ、村瀬さん」  気持ちとは裏腹に怒った口調の俺に、 「こうしたら、少しは温(ぬく)うなるじゃろ?」  そりゃそうだけど。っていうか、両手よりも顔の方が火照ってきたよ! 「っ、早く橋の上に行こうよッ!」  照れ隠しに大声で言うと、ぬくもりの戻ってきた両手を離してバイクから飛び降りた。急いで元カノメットと雨合羽を脱いで村瀬さんに手渡す。それらを無造作にキャリアに突っ込んで、先に歩道に向けて歩き始めた村瀬さんの背中を慌てて追いかけた。 「だるいー、さむいー」 「文句を言うな。早く来い」  お前が来たいと言ったんだろうが、とブツブツ言いつつ、すたすたと村瀬さんは進んでいく。遅れないように俺も後をついて、やがて廿日市大橋のアーチの最上部に着いた。  先に着いた村瀬さんは、寒そうに白い息を吐きながら暗い海の方向を見た。俺は反対側の山の方へ体を向けて、山沿いに建つマンションや遠くの道路の街灯の光を眺めた。  シュッと小さな音がして、やがて冷たい空気の中に胸をすくような香りが流れてくる。香りのする方へ顔を向けると、村瀬さんが咥え煙草でライターをブルゾンのポケットへ入れるところだった。  赤い螢火が村瀬さんの顔を少しだけ照らし出す。深く吸い込んだ煙を細く吐き出しながらぼそりと、「……何も見えん」と、村瀬さんが言った。 「そお? 見えるじゃん。ほら、広島市内とか」  振り返って村瀬さん越しに見える光を指差した。オレンジと白で彩られた沢山の街の灯りに赤や青の光が瞬いている。村瀬さんも俺と同じ方向に顔を向けると、また煙草を吸った。 「それでも、今夜は月も出とらんけえ、海は真っ暗じゃ」 「だから、人工的な物がはっきり見えるでしょ?」  黒い海に浮かぶ島々が辛うじて分かるものは海岸沿いの町の灯り。こちらは海岸線に沿って一列に綺麗に並んでいて、細い光の帯を海面に並べていた。  ふう、と煙を吐き出す呼吸音がため息のように聴こえる。ちょっとそれにムッとして俺は村瀬さんの傍から離れると目の前のガードレールをピョンッと跨いだ。 「おいっ! カズトッ!」  後ろの村瀬さんの声を無視して、上下一車線の車道をスタスタと横切る。反対側の橋の欄干まで来ると冷たいそれに手をついて、ぐぅっと上半身を前の方へ突き出した。
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