君がくれた世界

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 否定しないということは、山内で当たりなんだよな?  山内は三年になってからクラスが一緒になった。どうせ短い間の付き合いだし、卒業すると誰にも会わなくなるしと思って、転校してからもあまり積極的に周りの奴らとつるまないようにしている俺に、なぜか山内は色々と話しかけてはかまってきた。  別にうざくも無いから好きにさせているけど、帰りに声をかけられたのは初めてだな……。 「小泉もJRだったんか。いつ頃から、事故っとった?」 「……事故?」 「あれ? 事故でJRが止まっとるけえ、こっちにおるんかと思うたけど?」  ああ、どおりで。いつの間にか路面電車のホームには、次から次へと駅ビルから流れてきた人たちが押しかけて来ていた。 「……なかなか来ないんだよね、電車」 「多分、他のJRの駅からも人が流れて来とるけえ、遅れとるんじゃろ」  そうなんだ、と気の無い返事をしたのに、山内は俺の隣にピタリと並んで電車を待ち始めた。 「小泉。もしかして、いつも路面電車で帰るんか?」 「……いつもじゃ無いよ。時間があって、ボケッとしたい時だけ」  俺の答えに何が面白いのか、山内は大きな笑い声をあげて、 「小泉は、いっつもぼんやりしとるもんなあ。ほかの奴らもお前に話しかけたいのにぼんやりし過ぎて、きっかけが掴めんって言うとったで」  ほかの奴らなんて、誰も顔どころか服装の印象も見えてないよ。それにもういい加減、話しかけて欲しく無いんだけど。  そんな俺の思いを知るはずもなく、次から次へと山内はべらべらと喋りかけてくる。うん、ああ、そうなんだ、と生返事をしている間にも、どんどんニンゲンが増えてきて、少しずつホームの後ろから前へと押されるようになってきた。 「うわあっ、メチャ多なったのお」  ぶつかってきたニンゲンのせいでさらに山内との間が近くなる。ほんと、蒸し暑いし、隣のヤツは暑苦しいし、いやになる。伸びている線路を辿って視線を移すと、やっと三両編成の連結電車が信号で止まっているのが見えてきた。 「なんじゃあ、あれは宇品(うじな)行きか」 「でも、その後ろが宮島口行きじゃない?」
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