君がくれた世界

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 何輌かの電車が列になって信号が青になるのを待っている。信号が変わると、やっと向かい側のホームに宇品行きの電車が入ってきた。途端に、こっちのホームの宇品方面へ向かう人たちの群れが動き始める。  向かい側の電車は乗客を全て降ろすと、運転士がバタバタと後ろの車輌から前の車輌にある運転席へ移動して、あっという間に俺たちの前に滑り込んできた。  ホームが一杯だからか、注意を促す駅員のアナウンスが入り雑じって一気に辺りが雑然とする。そんな喧騒の中で、なぜか山内が俺の肩に手を添えると、グイッと自分の体の方へと引き寄せられた。 「小泉。この電車に乗る人がおるけえ、通路の邪魔になっとる」  ああ、と俺はなるべく体を細くして後ろのニンゲンに通路を開けた。それなりにニンゲンが入った宇品行きは、信号が青になると直ぐにスピードを上げて駅から出ていった。  次はようやく宮島口行きだ。ちょっと山内から離れるように元の立ち位置に戻って、電車が出発準備をしているのを眺めていると、 「なあ、明後日の試験の範囲で分からんところがあるんじゃけど、お前、教えてくれよ」 「……何で?」 「何でって。お前、普段はぼおっとしとるのに成績はクラスで一番じゃろうが」 「別に教えるのはいいけれど……。いつ?」 「じゃあ、今から」 「今から?」  唐突に面倒な事を言う奴だな……。そう、思っていた時だった。 「きゃあっ!」 「痛いのおっ」 「おいっ、押すなやっ!」   後ろが急に騒がしくなったかと思うと、  ――、ドンッ!  えっ?   いきなり強い力で背中を弾かれる。声を上げる間も無く俺の体は前へとバランスを崩した。 「小泉っ!?」  山内の慌てた声を遠くにしながら、気がつけば俺はホームから下の線路に転げ落ちていた。  痛ったあッ! なに? 何なんだよッ!?  キャアアアッ! と、女の人の大きな悲鳴が響いて、少し後ろを振り返ると一段高いホームにいるニンゲンたちが一斉に俺を見て大騒ぎをしていた。  ――そんなに騒がなくてもいいのに。そりゃ、盛大に転んでいるけれど、たかだか二、三十センチ位の段差だし、大したことは……。 「小泉ッ! 早く上がれッ! 早くっ。電車がっ!」
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