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その台詞に、はっとさっき見ていた電車に視線を移した。すでに電車は走り出していて、慌てた様子で何かを操作している運転士の姿が、迫ってくる電車の窓にはっきりと見えた。
うそだろ……?
パニック気味に線路に手をついて立ち上がろうとする。
ズキッ!
「痛ッ!」
右足に激痛が走った。どうも、転んだ時に捻ったみたいだ。うそうそうそっ。真面目に、かなり、いや、とってもヤバイ感じ!?
ギギギイイイッ!
電車の軋んだブレーキ音とニンゲンたちの悲鳴が響き渡る。その中で、小泉ぃっ! と、俺の名前を叫んだ山内がホームから降りてこようとしていた、その時だった。
「降りるな!」
その場を一喝するような大声が響くと、向かい側のホームから誰かが飛び降りて走ってきた。
ええっ!?
降りてきた人物が這いつくばる俺の脇の下に後ろから手を差し込むと、ぐんっ、と強い力で体を引き摺り始める。
えええっ?
それでもパニック状態の中で、後ろから引き摺られるのを手伝うように、自由になる左足で地面を蹴ってその場を離れようとした。
何とか線路上から離れると、ぎいいい、と音を立てて電車は俺が倒れていた場所の直前で止まった。その様子にどくどくと心臓が跳ねている。
助かった――。
止まっている電車の向こう側はまだ騒がしい様子で、俺を呼ぶ山内の叫び声がした。ふう、と安堵の息を大きく吐き出そうとした時、「大丈夫か?」と、少し焦ったような低い声が耳元で聞こえた。
あっ、この声――。
後ろの人物がゆっくりと立ち上がる。それを追いかけるように視線を向けた。
村瀬――。やっぱり、あの車掌だ。
白い半袖シャツの胸元の名札を見て、自分を助けてくれた人の名前を確認する。そしてさらに視線を上げていくと、そこには心配そうにこちらを見下ろす彼の顔がはっきりと捉えられた。(――これが、心配している顔)
思わず彼の顔を見とれていた俺に、小泉! 無事かっ!? と、反対側のホームからこちらのホームに移動してきた山内の大声が聞こえた。
「君、立てそうかい?」
助けてくれた彼が少し腰を屈めて問いかけてきた。
「あ、はい。あの、すみません」
慌てて手をついて立ち上がろうとする。
――ズキンッ!!
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