君がくれた世界

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「次は終点……、宮島口(みやじまぐち)……」  機械的な女性の声のアナウンスが響いて体がガタンと揺れる。瞼を開けずに意識が戻って、ああ、またやっちゃったな、と思う。 「次は終点、宮島口、宮島口です。お降りの際にはお忘れ物のないよう……」  あ、今度は村瀬(むらせ)さんの声だ。いつ聞いてもはっきりとしたいい声だな……。  ……ガタンッ。ヒュウーン。プシュー。  ああ、着いちゃったよ。起きなきゃな。でも、これ、たしか……。  遠くで、ありがとうございました、と乗客に礼を言う村瀬さんの声がする。  俺以外に乗っている奴がいたんだ……。 「……おい、こら。カズト」 「……」 「お前、起きろって。終点だぞ?」 「…………」 「カズトっ」  ゆさっ、と少し強く肩を揺さぶられた。薄く開いた視線の先にぼんやりと映ったのは、呆れた表情をした村瀬さんの顔。 「……あ」 「お前、またやったな。ここからどうやって帰るんだよ」  苦笑いをする村瀬さんに向かって、目を擦りながら大きく欠伸をする。ほら早く降りろ、と言う村瀬さんの言葉を背中に受けながら、鞄を肩にかけて電車から降りた。人気のない改札に向かいながらポケットから財布を取り出して、小銭が無いことに気がついた。 「何じゃ、また、やってしもうたんか」  呆れたように声をかけられて振り向くと、ぼやけた視界に小肥りの体が見えた。 「そうなんだよね」  取り敢えず返事をして、こちらに近づいてくる制服の胸元の名札を見る。今日の乗務は運転士の坂井(さかい)さんと一緒だったんだな。 「いつも飽きもせんと、よう寝られるのう」 「いいの。成長期だから眠いんだよ」  俺の返事に坂井さんは、カカカッと笑いながら、「じゃけど、終電で寝過ごすんじゃ世話ないわ。親が心配するでぇ」と、事務所の方へ歩きながら大声で愉しそうに説教をした。  親なんて、普段から家にいないし――。 「村瀬さあん、両替ぇ」  最終電車の車内を点検する村瀬さんに大きく声をかけた。俺の声は確実に聞こえているだろうに、村瀬さんはそれを無視して点検を終わらせると、ようやくホームに降りてきた。
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