君がくれた世界

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 右足のあまりの痛さに、また尻餅をついた。痛みを認識してしまうと、ズクンッ、ズクンッ、と足首の疼きが頭一杯に拡がった。 「顔色が悪いな。右足かい?」 「……はい。足首、捻ったみたいで……」  俺の傍に跪いた彼が、右足首に手を延ばしてそっと触れると、 「かなり腫れてきているね。もしかしたら骨折しているかもしれない」  ええ? 足、折った?  途端に頭から血の気が引いて吐き気がしてくる。ホームから声をかけてきた他の駅員に彼が救急車を呼ぶように言って、 「このまま、ここにいると危険だ。手を貸すからホームに上がろう」  はい、と返事をしたものの、気分が悪くて思うように体が動かない。そんな俺の様子をじっと見つめていた彼が、 「……ちょっと、ごめんよ。肩に掴まって」 と呟くと、俺の左腕を取って自分の肩へ廻した。  あ、このまま立ち上がれって事かな?  そう思った瞬間、えっと思う間もなく、ふわりと体が浮く感覚がした。  えっ、えっ? 一体、どういう?  急にバランスが覚束無くなった体を固定するために、咄嗟に右手で彼の左肩を掴む。至近距離の彼の横顔を認めると、一気に顔が熱くなってきた。  ――これって、もしかしてお姫さま抱っこ!?  近くに見える端正な横顔にドキドキした。気分の悪さはすっかり吹き飛んで、足の痛さよりも恥ずかしさで一杯になる。  俺を軽々と抱えて、スタスタと歩く彼の腕の中でチラッとホームを見ると、俺たちの様子を見守っていた山内から、微妙な空気が漏れ出していた。  うわっ、余計に恥ずかしい!  なるべく山内に表情が見えないように俯いたけれど、今度は彼の胸にすっぽりと包まれるようで、それはそれで居心地が悪かった。  抱えられてホームに上がると、彼は俺をそのまま端にあるベンチへと連れていった。ベンチに優しく座らされて俺はもう一度、彼の顔を上目遣いに眺める。  さっきの心配そうな顔から今度は、大丈夫だから、と言いたげな微笑みが見てとれた。(――これが、微笑んでいる顔……) 「小泉、大丈夫か!? お前」  駆け寄ってきた山内が心配そうに俺を見下ろして肩に手を添えてきた。 「うん……。でも、足首を酷く捻ったみたいだ」 「一体、どうしてあんなことになったんだ?」  少し厳しい口調で、彼が山内に訊ねる。
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