君がくれた世界

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「いろいろと警察に様子を聞かれてから、俺、マジで緊張したわ」  山内はあのあと、警察の現場検証に立ち会った、と言った。 「結局、俺らを押したヤツも分からんかったし、まあ、でも、お前が無事なら良かったわ」  校舎に近づくと登校するクラスの奴らから、大丈夫か? と声をかけられた。でも、誰が誰だか分からないから適当に頷いておいた。  何とか苦労して松葉杖で階段を上がって、ヘトヘトになりながら教室の自分の席に座ると、山内も自分の机に鞄を置いて、 「小泉、便所とか行きとうなったら遠慮せんで言えよ。連れてってやるけえ」  そんな恥ずかしいこと、教室に響くような大声で言うなよ……。 「それと帰りも俺が家まで送ってやるけえな」  山内、やさしいのう、一体、どうしたん、と、ちょっとした話題を提供してしまった俺の机の廻りに集まった奴らが口々に山内をからかった。 「ええじゃないか。小泉は俺と帰りが同じ方向じゃし、足が大変じゃろうけえ、助けてやろうと思うただけじゃ」  ボタンを外して大きく襟を拡げたシャツの首元をなぜか真っ赤にしながら、山内が上ずった声で反論した。 「あれじゃろ? 山内、小泉を抱っこして送ってやるんじゃろ?」  多分、あの事故の様子を伝え聞いた奴からのおどけた言葉に、アハハ、とその場が笑いに包まれる。  だけど、その笑い声の隠れた意味を俺は知っている。これは、からかっているとか、馬鹿にしているとか、そんなニュアンスの笑い声――。 「そっ、そんなこと、する訳無かろうがっ!」  ああ、そんなに慌てて否定すると、余計にみんなに嗤われちゃうよ……。  あの騒ぎの時に居合わせたクラスの女子たちなのか、俺が村瀬さんに女の子のように抱き上げられて助けられた様子を、思い出し笑いをしながら周囲の奴らに面白おかしく話をする。 「……ほじゃけどアイツ、助けるんなら他にも方法があったろうが……」  ぼそりと呟いた山内の台詞と一緒に、始業を知らせるチャイムが俺の耳に入ってきた。
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