君がくれた世界

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 テスト自体はいつもの通り何の問題もなく、三日間の期末試験は無事に終了した。  一日目、二日目と山内は別に頼んだ訳でも無いのに俺と一緒に路面電車に乗り込んで、宮島線を使って家の近くの電停まで俺を送った。 「山内、今日は一人で帰れるから送ってくれなくてもいいよ」  最終日の三日目、テスト終わりに気の緩んだ他の奴らが山内をマックに誘うのを耳にして、これ幸いと俺は言った。 「ついでに今週はギプスが外れるまで休んじゃうからさ。ありがとうな、山内」  でも、と言いかけた山内の台詞を遮るようにリュックを背負う。まだ俺に着いてこようとする山内に、オイ、行くでえ、とタイミング良く山内を誘った奴らから声がかかった。 「ほら、待たせると悪いよ」  尚も何か諦め切れないように体を揺らした山内にニッコリと笑いかけると、俺はやっと慣れてきた松葉杖を駆使して、とっとと教室を後にした。  夏の照りつける太陽の下、ゆっくりと学校近くの電停まで向かう。すぐに小さな箱形の一車輌だけの電車がやってきて、俺は乗り換えをする街の中心にある電停へと向かった。  中心地の大きな電停に降り立つと、電停の端っこに向けてゆっくりと移動する。三両編成の宮島線の電車なら、車掌のいる入り口の方が手も貸してもらえるかもと思ったからだ。  平日の昼下がりは市内中心地の電停でも電車を待つ人はとても少ない。待っているのは年寄りばかりで皆、一様に電停前にあるデパートの紙袋を持っていた。  電光掲示板が宮島口行きの電車が来ることを伝えている。だけど残念な事に、その電車はバリアフリー対応の車輌ではなかった。  どうしようかな、これは見送ろうかと思っているうちに、やってきた電車が目の前に止まった。車掌が扉を開けて、降りてくる客が出ていったあと、 「君、もう大丈夫なのかい?」  その心地好い声に勢い良く顔を上げる。そこには車内からこちらを見下ろして笑っている彼の、村瀬寿明の顔があった。 (……やっぱり見間違いじゃない。この人ははっきりと認識できる……)  急にかけられた声に、なぜだか心臓の鼓動が早くなった。 「どうする? 次の電車なら、低床車だけれど」 「のっ、乗りますっ」 (うわ、何で、声、高くなってんの?)
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