君がくれた世界

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 ――おかしいじゃん。あの人は男だよ? どうして今のこの気持ちが『恋』だなんて解るんだ? 今まで女の子と付き合ったこと無いのに。  いや……。誰とも、マトモに付き合ったことなんて無いのに。  でも――。でも、彼は初めてこの世界で認識できたヒトだ。  今まで自分の廻りにはニンゲンしかいなかった。それでも独りになりたくなくて、懸命に自分の小さな世界を構築して、それなりに友だちモドキも作って楽しく暮らしていた。  コミュ障だとか、何を考えているか解らないとか、苛められたりもしたけれど、でも、少しずつ少しずつ自分を理解しながら生きてきた。なのに急に何もかもを破棄されて、こんなところに連れてこられた。小さな頃からコツコツと積み上げてきたものは、大人たちの勝手な理由で呆気なく壊された。  仲良くしていると思っていた東京の友だちも、結構早めにメールもLINEも無視された。友だちモドキだから仕方がない。だけど、それでも東京に創造した小さな自分の世界に君臨していた俺は、少なからずショックを受けた。  せっかく俺の世界に招き入れてやったのに、コイツらは俺のことを何とも思っていない。  だから、もう諦めた。戸惑いのままに新しい世界をまた、一から創り直すのは、もう出来ないと諦めた。色んな物が灰色のこの壮大な世界に紛れて、ぼんやりと過ごしていたのに。  そんな中に鮮やかな色を纏って彼は現れた。ぼんやりとしたニンゲンたちの中で、彼だけが唯一のヒトだった。  だから、惹かれたんだ。だから、好きになっちゃったんだ……。  この気持ちが恋かなんて、今は解らない。だけど……。  だけど、初めて出会ったたった一人のヒトに、もっと自分の事も認識してもらいたい……。  炎天下の中、ようやく見えてきた自分の家を前にして、どうしたら彼にもっと近づけるのかを懸命に考えていた。
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