君がくれた世界

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 怒ったような俺の言葉に村瀬さんが驚きの顔をした。そして、おいおい、と呆れたように、 「自分で決めれんからって、俺に丸投げするなよ」  その村瀬さんの言葉に、なぜだか胸が締めつけられた。  そんなこと、分かってるよ。だけど。だけどさ。ひとこと、欲しい言葉を言ってくれても、いいじゃん……。  黙って俯いてしまった俺に、ふぅ、と一つ村瀬さんがため息をつく。そしてブルゾンのポケットから右手を出して俺の頭にポンと乗せた。 「分かっとるって。カズトは、ちゃんと将来のことを真剣に考えとるもんな」  わしゃわしゃと頭を撫でられて曖昧な笑顔を作った。  将来なんて何も考えてないよ。だって今のこの瞬間のことだって分かりはしないのに。  ホームセンターの駐車場に、びゅうっと海からの強い風が吹き抜ける。射すような冷たさの中に塩辛い匂いが混じっていた。 「そろそろ帰るか。これから本番を迎える受験生に風邪を引かせたら大変じゃけえな」  自分が乱した髪を整えるように、また、ぽんぽんと軽く俺の頭を撫でて、村瀬さんは爽やかに微笑んでくれた。
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