君がくれた世界

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*** 「小泉ぃ」  校門を出る直前で後ろから声をかけられる。この声、山内だよな?  チラリと後ろを振り向くと、こちらに向かって早足で近寄ってくる人物が見えた。うん。あのネクタイのだらしない弛め方は山内だ。 「何か用?」 「何かってお前……、久しぶりに会ったのにつれないのう」 「山内が学校に来ないから顔を会わせる機会が無いだけだろ」  エヘヘ、と笑いながら山内が隣を歩き始める。 「マジ疲れたあ」 「お前さ、バイトのし過ぎだろ? いくら推薦受かったからって、出席足りないとヤバいんじゃ無いの?」  あ、余計なことを言っちゃったな。案の定、ピッと山内の頭に犬の耳が生える。 「大丈夫じゃって。そこら辺は考えとるよ。それより腹減ったわ。何か食いに行かん?」  俺は少し周りを見渡す。山内は明るくておちゃらけた性格だからか、いつも誰かしらと一緒につるんでいる。でも、今日はどうやら一人みたいだ。うーん、面倒だな。どうしようかと思案していると、 「たまにはええじゃろ? そうでなくても小泉は付き合い悪いけん。言っとくけど今の俺、ちょっとカネ持っとるから奢っちゃるで」  別に奢られなくてもいいんだけど。それに、なんなの? その成金発言。 「もう卒業まで俺らあんまり会えんのよ? 一度は小泉と学校以外でダベってみたいし」  デッカイ犬が耳を倒して尻尾をだらりと下げている。うーん。……まあ、これが最後かも知れないし、一度くらい、付き合ってやるか。 「いいよ」  ブンブンと山内が嬉しげに激しく尻尾を振り始めた。その様子に、止めておけば良かったと激しく後悔した。いつもなら、スパッと容赦なく断るのに、なぜだか今日は行くと言ってしまった自分に驚いた。  大口を叩いたくせに山内に連れて行かれたのは広島駅の中のマックだった。俺はコーラにポテトを頼んで、山内はセットメニューにチーズバーガーをつけ足した。二人で席に座ると早速、山内は、がふっとチーズバーガーに食らいついた。 「なあ、小泉は結局、どこの大学受けんの?」  チーズバーガーで頬っぺたを膨らませたまま、山内が俺に聞いてくる。 「……まあ、適当なトコ」 「何じゃあ、隠すのう。まだ決まっとらんのなら、俺と同じとこにせえや」
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