君がくれた世界

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「は? なんで?」 「何でって、知っとるヤツがおる方が楽しいもん」  何? その小学生みたいな理由つけ。さらに山内は、 「今、俺、自動車学校に行っとるんじゃ。免許取ったら大学まで車で行こうと思うて。同じとこになったら、お前も乗せて行っちゃるけえ」  まあ、その内ね、と気の無い返事をしてコーラを吸い上げた。  山内が一方的に話す内容に、ふーん、と気の無い相槌を打つ。ポテトも平らげて満足した山内がふっと黙った。じゅるるる、と残りのコーラを吸い上げる俺に、 「小泉、お前、こないだ俺を無視したじゃろ?」  無視、という言葉にどきんとする。 「えっ……。いつ……?」  動揺を悟られないように、冷静になれ、と念じながら山内に聞いた。 「この前の金曜日。バイトの帰りに駅でお前を見かけて手え、振ったんで。なのにお前、俺の方を見とったのにさっさと行ってしもうてから」  金曜日……。制服姿の奴は見覚えが無い。バイトの帰りと言うことは私服だった? 「ああ、ごめん。ちょっと、あのときは風邪で熱っぽくてさ」  咄嗟に偽りの言葉が口から出たけれど、 「……ほうか。そんなら、いつもよりぼけっとしとっても仕方がないのお」  山内は俺の嘘を信用したようだった。ヤバいな。ちょっと気を抜くとこれだ。  でも、確かに相手が制服姿なら何とかなるけれど、大学だと周りは皆、私服のニンゲンばかりになる。これはますます、気が重くなる事態だな……。 「それじゃ、そろそろ帰るか」  やっと解放されることにホッと息をつく。マックを出て、駅前を歩き出した俺に山内が慌てた様子で、 「小泉? どこ行くんじゃ?」 「どこって、路面電車乗り場だけれど?」  はあ? と山内は大袈裟に聞き返した。 「だってお前、ほんとは山陽本線じゃろ?」 「いいんだよ。別に早く帰ってもすること無いし、考え事をするには丁度いいんだ」  ごちそうさま、と言って歩く俺の後ろを山内はなぜか追いかけてきた。 「俺も一緒に路面で帰るわ。今日はバイトも休みじゃし、早よぉ家に帰っても何も無いしな。それに、また小泉が線路に落っこちたら、かなわんもん」  ええっ、やめろよ、そんなの。
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