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かけた俺の言葉に、ええんじゃ、と一言告げてなぜだか黙ってしまった。普段、騒がしい奴が黙っていると、それはそれで不気味なもので何となく居心地が悪くてソワソワする。
最後の乗客が降りて扉が閉まっても山内は動こうとしない。どうしたんだろう、と思っていると突然、
「なあなあ、これから俺らと一緒に行かん?」
急に山内は、さっき乗ってきた女子高の女の子たちに喋りかけた。
何? コイツ、いきなり電車内でナンパ?
声をかけられた女の子たちも、驚いた様子で山内の方を見ているようだ。
「俺ら、あの新しいショッピングモールに行ったことないんよ。連れてってえや」
ショッピングモール? あ、あそこか。いつも村瀬さんに廿日市大橋へ連れていってもらうときに通る……。
どうやら彼女たちはそのショッピングモールに向かうらしい。彼女たちの会話を拾って山内が話しかけたようだ。
山内は言葉巧みに女の子たちの警戒心を解いていって、コイツのこういうところは凄いな、と素直に感心した。山内の申し出に、うちらも一緒に行ってもええよ、と女の子たちが言うと、
「ホンマ? 良かったあ。あ、俺は山内、コイツは小泉ね」
「えっ? 待てよ。俺は一言も行くとは……」
「まあ、ええじゃないか、小泉。そうでなくても、お前は引きこもりっぽいんじゃけえ、ちょっとは息抜きせんと」
余計なお世話だよ。俺は好きでこんなライフスタイルなんだ。
「それとコイツは、あの車掌と仲がええんで。いろいろとあの車掌のことを教えてくれるで。もしかしたら、メルアドくらい渡してくれるかもな」
……冗談じゃない。何で俺が恋敵を増やすような真似をしなくちゃいけないんだ……。
行かない、という俺の懇願は悉く却下されて、なぜか山内に腕まで掴まれてしまった。
ショッピングモールに近い電停が近づくと、立っていた女の子たちは電車の揺れに制服のスカートをヒラヒラさせながら、村瀬さんのいる出口へと向かう。山内も席を立つと、まだ座っている俺の腕を、ぐいっと引っ張った。
「……マジで行きたく無いんだけど」
睨みつけて低く言う俺の言葉を、山内は見事にスルーして、
「まあまあまあ。どうせ、家で受験勉強なんかせんじゃろうが、カズト」
急に下の名前で呼ばれて、びくん、と体が震えた。
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