君がくれた世界

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 もしかして、あの人が元カノメットの人なのかな……。最終便のフェリーで宮島に渡ったって事は島に住んでいるんだよな? と言うか、宮島って人が住めるの?  ――はぁ。  自然とため息が出てしまう。ほんとにどうしてあの人を好きになっちゃったんだろう。どう転んだって、この恋は成就出来ないのに。  母親と二人暮らしのアパートに帰り着く。外から見る部屋の灯りは点いていなくて、余計に寒々しく感じた。  カバンから家の鍵を出してドアを開けると、横の壁の郵便ポストに何かが突っ込んであるのが暗がりでも見てとれた。  郵便ポストの中身を引っ張り出して家の中へと持って入る。玄関の灯りを点けて郵便物を確認すると、ほとんどが母親宛のダイレクトメールだったけれど、一つだけ大きな封筒が俺宛に届いていた。  これは父さんの字だ。  その場で封を開けて中を確認する。父親からのメールにあったように、いくつかの有名私立大学の願書と受験日に合わせた東京行きの航空券が入っていた。  ――なんで親って、子供がいつまでも自分の思い通りになると勘違いするんだろう……。  寒い玄関に立っているのになぜか体が熱くなる。胃がムカムカしてきて、急にイライラしてしまう。その時、ガチャリと音がして母親が玄関に入ってきた。 「カズト? 今、帰ってきたの? あなたも遅かったのね」  ご機嫌な様子の母親は、ハイヒールを脱ぎながら俺の手の中の郵便物に視線を移した。  そして、父親の字が書かれた大きな封筒を見つけると、途端にテンションが下がった。中身が何か分かったんだろう。母親に追い越されて玄関から室内に入った俺に、 「……ちょうどいいわ。カズトに話があるのよ」 と、言うとキッチンのテーブルの椅子に腰かけた。促されるまま俺もテーブルに着いて、まだ暖房の効かない室内でコートを着たまま、黙ってしばらく座っていた。  母親はテーブルの上に置いた父親からの大学の願書の入った封筒をチラリと見ると、 「カズト。結局、どこの大学に行くのか決めたの?」 「……決めて無いけど、いくつか受けてみるつもり。広島と東京と」  そう、と母親は頷いて、 「あのね。前に会った、お母さんの会社の社長さん、覚えてる?」
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