君がくれた世界

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***  東京と広島のいくつかの大学を受験して全てに合格通知をもらって、さあ、本当にどこにいくかを決めなくちゃな、と頭を悩ませる。  受験の為に飛行機に乗り、着いた羽田空港で迎えにきた父親と久し振りに会った。  けれど、声をかけられるまで、行き交うニンゲンの中から父親の姿を見つけられなかった。それなのに父親は久々に会った息子に、とても嬉しそうに接してくれた。  昔、両親と三人で暮らしていたマンションに向かう。俺が使っていた部屋は荷物もなくてガランとしていたけれど、それでも懐かしい匂いがした。  広島での暮らしぶりを聞かれて、淡々と答えていく。その中で母親が再婚することと、俺に兄弟が出来ることを告げると、父親は何とも微妙な空気を醸し出した。  ――後悔するくらいなら、別れなきゃ良かったのに。 「カズト。こっちの大学に行くのなら、ここから通いなさい」  相変わらずの決めつけ台詞に、ウンザリしながら数日間を東京で過ごした。  自由登校日の午後、いつもの様に家へと帰るために広島駅前から路面電車に乗った。  車掌は村瀬さんじゃ無かったけれど、何となく、その電車に乗っていると途中から交代で村瀬さんが乗り込んでくる気がしたからだ。  ただ、今日は車掌台の後ろの席はすでに先客がいて、仕方無く三両目の長椅子式のシートの一番端に座り込んだ。  ノロノロ運転の電車の揺れが眠りに誘う。そのまま寝込んで次に気がついたのは、宮島線に入って電車が大きく揺れた時だった。  ガンッ!  ……痛ったあ。また、やったよ……。  時々眠りこけて、後ろのガラス窓に後頭部を電車の揺れに振られてぶつける事がある。薄く目を開けると、対面のシートには客がいなくてホッとした。  流れる車内アナウンスの声に耳が反応する。少し遠い車掌台を見るとそこには、見覚えのある広い背中があった。  やっぱり、村瀬さん、途中から乗務したんだ。  自分の予想が当たったことに少しニンマリする。きっと、村瀬さんも俺が乗っていることは気づいているはずだ。眠り込んでいたから、声はかけなかったんだろう。  そうだ。前は自分で決めろ、って言われたけれど、村瀬さんに進学の話をしてみよう。  ……と言うか、ただ単に少しでも何かの会話のきっかけが欲しいだけなんだけど。
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