君がくれた世界

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 これで、今日も終点の宮島口まで行くことが決まった。  次の電停に電車が停まって、数人の客が乗り込んでくる。その中にケタケタと一際大きな笑い声で話をしながら、俺と同年代くらいの奴らが真ん中の扉から乗り込んできた。よほど愉しい事があったのか、そいつらは電車が走り出しても大笑いを止めなかった。  ほんと、うるさいな……。  俺は、動き出した電車の対面の窓を眺めた。ちょうど山陽本線の電車も隣接するJRの駅から出発している。同時に走り出した電車を眺めていると、どやどやと騒がしい雰囲気がこちらの方にまでやってくるのが分かった。  ちぇっ。アイツら、後ろの空いている運転台でたむろするつもりのか。  騒がれること必至な様子に少しため息をついて長椅子に座り直した。三両編成の電車は、ほぼ同じスピードで隣のJRの電車と競っている。  あ、やっぱりダメかあ――。  こちらの電車が次の電停に停まるためにスピードを落とした。ちょっとした競争も終わって、電車がまた電停を発車したとき、いきなり目の前に陰が出来て視界を塞がれた。  邪魔しているのは三人のニンゲン。横一列に俺の目の前に並んで立つのは、真ん中が紺色のジャンパーにチェックのシャツ、左はジャージで右はジージャンだ。  ――なに? もしかして、さっきの大声の奴ら?  チラリと視線を上に向けてみる。どうも、真ん中に立つ奴は俺のことを頭の上から被り気味に見ているようだけど、当然、俺には見覚えなんてある訳がない。  こんな雰囲気の知り合いはいないしな。知らない奴には関わらない方がいい。  俺は、視線を外して顔も下に向けた。それでも三人組の真ん中の奴は、どうも俺をじっと見ているのか、頭の上から注がれる視線を感じて居心地が悪くなる。  やだなあ。俺、何かしたっけ?  もう一度、真ん中の奴の顔と思われる辺りをチラリと見て、やはり解らないから目を逸らした。その時だった。 「……ええ根性しとるのう、小泉」  えっ? 急に頭の上から名前を呼ばれて、弾かれたように上を向いた。 「初めてじゃ、そんなふうに無視をされたんわ」  話しているのは真ん中の奴だ。吊り輪を握り締めて、顔を近づけるように体を屈めている。
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