君がくれた世界

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 無視されたって……、じゃあ、俺の知っているニンゲン!?  目の前の奴の姿を改めて確認する。チェック柄のシャツの胸辺りを見て、そして上へと視線を移していく。  襟元のボタンが二つ開けられていて、下に着ているTシャツが見えている。それから、しっかりした顎が見えて真一文字に閉じられた唇が見えて……。  鼻から上に移ると二つの目。その双眸はこちらをじっと見つめているけれど、凄い怒りの感情が見てとれる。  そこまで確認出来るのに……。  なぜか、それらが一つに合わさるとぼんやりと輪郭を無くして俺にはそれが誰だか分からない……。 「ふざけとるんか? 小泉!? この間から何回も俺の事を無視しやがって! あの時、ちゃんと謝ったじゃろうがっ! まだ不満かッ!」  無視……。 あの時……?  頭をフル回転させて、コイツの事を脳に検索をかける。だけど焦ってしまって特徴の一致がすぐに出来ない。誰だよ誰だよ誰だよッ!?  おい、人違いじゃ無いんか? と、隣のジージャンがチェックシャツに言う。左ジャージも、あれくらいで酔ったんか、と呆れた様に言った。それにカチンと来たのか、ああっ!? と真ん中の奴が左ジャージに喰ってかかる。  あ、この声――。  いきなり真ん中の奴がぐっと至近距離に顔を近づけてきた。俺は思わず頭を後ろの窓に押しつけて顎を引く。 「お前、――!」  言葉と一緒に吐き出された息が顔にかかる。うっ、クサッ。この臭い、まさか……。  体が震えて顔を背けた。その俺の行動がさらにソイツの怒りに火をつけた。  バンッ!  チェックシャツが右手を突き出して、俺の左頬を掠めながら後ろの窓ガラスに手を突いた。何をされるのか解らない恐怖が全身を包み込む。 「一人でおるんが可哀想じゃけえ、あんなにかまってやったのに!」 「なあ、山内。コイツ、ほんまにお前の友だちなんか?」  ――や、まうち? 山内、だって?  おい、もうやめろや、と両隣の二人が止める。ウルセエッ、と肩に置かれた手を乱暴に払って、隣のやつに喰ってかかる目の前のニンゲンをもう一度、大きく目を開いて見つめた。  さすがに騒がしい声に少ない乗客も気がついて、ざわざわとした空気が車内を満たし始める。
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