君がくれた世界

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 村瀬さんの口振りに余計に哀しくなってくる。なんで、そんなに山内モドキの事を気にするんだよ。あんなに直ぐに怒鳴って、あんなに首を絞められて、あんなに怖かったのに。 「カズト、お前、それ、怪我したんか?」  村瀬さんの声色が何かに気づいたように変化した。頭に置かれた右手が離れて、俺の左頬に近寄ってくる。 「赤(あ)こうなっとる」  頬を触れられそうになった瞬間、咄嗟にその近づく手を掴んだ。 「カズト?」  ああ、こんな事を聞いても意味が無いのに。でも、少し上目遣いで彼を睨みつけて、聞いてみたいことを問いかけた。 「ねえ、村瀬さん。――、俺の顔、わかる?」  いきなり手を掴まれて、尚且つ訳の分からない質問を投げかけられた彼の表情は、何だか驚いて見えた。(これが、キョトン、とした顔) 「……分かるって?」 「だから、俺って、どんな顔してるの?」  しばらく口を開けたまま、キョトンとしていた村瀬さんは口を閉じると俺の顔をじっと見た。 「……目と、」 「目と鼻と口がついてる、なんてベタな答えは無しね」  解答を先回りされた村瀬さんが苦笑いをする。(これは苦笑している顔) 「……カズトは男にしては綺麗な顔をしとるよ。何て言うか……、可愛い、と言う形容も出来るんかな」  今まで他人に聞いたのと同じだ。 「じゃあ、さっき会った山内は?」  村瀬さんが俺の真意が分からずに困惑の表情を見せた。(これは困っている顔) 「彼は、男らしい顔をしていたけど」 「俺と同じ顔じゃない?」 「ハ? 全然違うじゃろ? どっちかと言うとお前は女顔じゃ」  村瀬さんがさらに、何を言いたいんだ、と口には出さずに問いかける。  村瀬さんの手を掴んでいる自分の手に力を入れると、はあ、と一つ息を吐いて真っ直ぐに彼を見つめた。まだ、困惑気味の村瀬さんに向かって、 「俺には、それが分からない」  えっ、と彼は案の定、聞き返してきた。 「だから、俺は他人の顔が分からない」 「――、分からん、って……」  村瀬さんから視線を外して、 「俺はね、他のヒトの顔が認識できないの。だから、山内が分からなかった」  掴んだ村瀬さんの手が細かく動いた。 「――、それは、俺の顔も分からんのんか?」
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