君がくれた世界

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 ウソ。急にそんなこと、ある?  あんな風に別れたままで……。  あんなことをして……。  あんなことを言われたまま……。  自分の気持ちをはっきりと伝えないまま、俺の世界に初めて入って来た……。  ――たった一人のヒトを失う……?  自然と両手を強く握り締めていた。その手が微かに震えているのも分かった。  こんなに突然……。  そんなの、……いやだよ! 「……村瀬さんの実家って、どこ?」  自分でも消え入りそうな声だったのに、坂井さんは、 「村瀬の実家か? あそこだよ、ほら」  まだ照明が照らすロータリーの向こうを指差して、 「宮島だ」  ――、宮島。まだ行ったことの無い神の島。大きな鳥居が来るものを迎える、神秘の島……。  だったら……、フェリーだ! 「ありがとっ! 坂井さん!」  返事もそこそこに駅舎を駆け出す。  おいっ、ボウズ! と坂井さんが大声を出したけれど、それに構うことなく、フェリーの停まっている桟橋へと突っ走った。
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