君がくれた世界

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 不審者の事は学校から教えられていたけれど、その人はスーツ姿で教えられた特徴と違ったから、オジサンと一緒に行こう、と言われて俺は素直に応じた。  するとなぜか、通学路とは少し離れた公園のトイレに連れ込まれて、太ももやお尻を触られた。 「びっくりしたけど、その時はそれだけで済んだ。多分、すごくポカンとしていたんだと思う。他の人には内緒だよって言われて」  それ以上は何もされずに解放されて、あとになってやっと怖くなった。走って家に帰って母親に言って……。  でも、警察官や学校の先生に不審者の特徴を聞かれても答えられなかった。代わりにスーツ姿が印象的だったからそれを伝えると、不審者は一人から二人に増えた。 「それからしばらくして、また声をかけられた」  今度はジャージを着た人だ。サッカーボールを一緒に捜してくれと頼まれた。  近くの公園のグラウンド脇をその人とボールを捜していたら、いきなり植木の影に引き摺り込まれた。  前と同じように体を弄られて、今度はパンツの中にまで手を入れられた。怖くて叫びそうになると静かにしろと怒鳴られた。それでも何とか暴れてその場を逃げ出して。  また、警察や学校に言うと不審者は二人から三人になった。  不審者が複数になると、学校も児童に対して集団での登下校をするようにと手を打った。パトカーの見廻りもあって、しばらくは不審者騒動も無くなったけれど……。 「……三度目に、車に連れ込まれた」  隣の村瀬さんが驚いたようにこちらを向いた。  ――キミ、オジサンの事を覚えているかい?  誰だか全然見覚えが無い。分からない、と言うと一緒に来て欲しい所があると言われた。 「さすがに二度もそんなことがあったから、警戒心は半端無くて。いやだって言ったら、学校の担任の名前を言われたんだ」  ……先生がね、大事な用事があるからすぐに学校に戻って欲しいって。  警戒心を解いたわけでは無かったけれど、知っている人の名前を言われて少し安心した。  途中まで一緒に歩いて、人気の無い信号に差しかかったとき、ちょっとここで待っていてね、とその人はその場を離れて……。 「赤信号を待っていたら、急に出てきた車のドアが開いて……」  車内から飛び出してきた腕にいきなり肩を掴まれて、車の中に引き込まれた。
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