君がくれた世界

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 思わずその場にしゃがみこんで、これでもかと言うくらいに膝を抱えた。すると頭の上から何かが、ばさりと落ちてきて視界が薄暗くなった。 「……恥ずかしいのは判るけどな、風邪を引かれちゃ、こっちが堪らん」  ……これ、バスタオルだ。  もぞもぞとバスタオルから顔を出すと、今度は強い力で頭を撫でられた。 「他の人も使うんで。こんなにびしょ濡れじゃあ、迷惑になるって教わらんかったんか?」  タオルで俺の頭を拭く村瀬さんの小言が聞こえる。村瀬さんは俺と同じようにしゃがんで、もう一枚タオルを渡してくれた。それを受け取って何とか裸の体を見られないように、肌についた水滴を拭き取っていく。  俺から離れた村瀬さんが自分の脱衣かごに戻るのを見て、さっと立ち上がるとバスタオルを体に巻きつけた。そろそろと隣へ近寄ると、俺の格好を見た村瀬さんが、 「カズト……。お前、女子か……」  だから、貴方の前では女子と同じになっちゃうんだよっ!  口から出そうになった言葉を飲み込んで、村瀬さんのツッコミを無視すると、本当ならパンツを新しくしたいと思いつつ、風呂に入る前に脱いだ下着をもう一度身につけた。  体にバスタオルを巻きつけたまま、村瀬さんの方を見ずに浴衣に手を伸ばす。畳んである浴衣を広げると、あまりの布の大きさにびっくりした。  浴衣を着るのに四苦八苦しながら、何とか体裁を調えて、はぁ、と大きく一息ついた俺に、村瀬さんのため息混じりの声がした。 「カズト、それ、左前になっとるぞ。それにそんなんじゃあ、寝たら全部はだけてしまう」  左前? 意味が分からなくて、つい、村瀬さんの方を見てしまった。 「うわっ!!」  村瀬さんは着ていたものを全部脱いで、タオルだけを腰に巻いている状態だった。 「何を一人でオタオタしとるんじゃ」  呆れたように言う村瀬さんから目を離せない。仕事の制服姿でも、きっと綺麗に筋肉がついているんだろうなと妄想、もとい、想像はしていたけれど、遥かにそれを越えた体が目の前にお披露目されている。  ほとんど裸の村瀬さんが俺に近寄ると、折角苦労して巻きつけた帯を外し始めた。 「ちょっ、なにっ!?」  しゅるん、と帯を床に落とされると、今度は、バッと浴衣の前を大きく拡げられた。
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