君がくれた世界

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 その言葉に弾かれた様に母親を見る。その顔は相変わらずぼんやりしていた。 「……かっこいい?」  隣の車輛の出口に立つ彼をここから眺めても、遠すぎて顔ははっきりとはしない。  見間違いかな? うん、きっとそうだ。  ……だって、俺の見つめるニンゲンたちは、いつもぼんやりとしているんだから。  低い爽やかな声色のアナウンスを聞きながら、やはりぼんやりと流れる車窓を眺めた。  あれが、俺が村瀬さんを初めて認識した瞬間だった。
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