君がくれた世界

85/110
前へ
/110ページ
次へ
 段々と海の色も明るく変わってきて、いくつか見える島の海岸線の町の灯りも徐々に小さくなっていった。あれがいつも俺が橋の上から見ている灯り。何だか不思議だな。  廿日市大橋から見る対岸の島の灯りは視線と平行で、作られた安っぽいイルミネーションみたいだったのに、ここから見下ろすと、光の中に何か鼓動のようなものが感じられる。  ここから見えるのは宮島の裏側の景色だよな。前は瀬戸内海なんて小っちゃくて海じゃ無いじゃんって思ったけれど、今、目の前には島々を浮かべながら遠く臨む水平線と、時々、風に混じる微かな潮の香りが、ここがちゃんと大きな海なんだと認識させてくれた。  このまま行けば遥かかなたの太平洋に出るんだ……。  夜明けが近いのだろう。空は淡く白んで、それを写すように海の色もグレーっぽく見えた。 「カズト」  景色を眺めていた俺を村瀬さんが呼んだ。彼に近づきながら、また隣に立つと肩を抱かれるのかな、と少し期待した。でも、傍に寄った俺の肩に村瀬さんは手を廻すことはせずに、「もうすぐ夜が明ける。御来光が拝めるぞ」と、近くの大きな島を指差した。 「あの尾根から太陽が昇って来るんだ」  確かにその島の尾根の一部は、周りよりもオレンジ色で切り取られたようにはっきりと島の形が分かった。でも、 「島の上に雲がかかっているよ。隠れて見えないんじゃ無いの?」 「よう見てみい。雲は島よりも高いじゃろ? ほら、雲が染まっていくぞ」  雲が染まる?  まだ藍色の残る空に浮かんだ雲が、段々と緋色が強くなった島からの光を受けて、薄紫から赤紫、青紫に灰色と島に近い方から綺麗なグラデーションで彩られていく。  重なる雲と雲の間はくっきりとした紺色で形を抜き出している。その色は少しずつ配色を移しながら風にゆっくりと流れて、やがて空も雲と同じ薄紫に変わっていった。 「そろそろ出てくるぞ」  村瀬さんが顔を向けた方へ自分も体を向ける。今度は俺の方から村瀬さんに寄り添うように。その視線の先に島の稜線から朱を引き連れて、太陽が頭をゆっくりと出してくる。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

765人が本棚に入れています
本棚に追加