君がくれた世界

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 それは今までに肉眼で見てきた太陽の色とは違う。そう、テレビとか本で見た、まるでアフリカのサバンナに昇るような赤いオレンジ色。太陽は島を包み込みながら、どんどん顔を上げていく。鮮やかだった赤いオレンジ色も少しずつ薄くなっていく。 「カズト。対岸の山を見てごらん」  優しく声をかけられた。その声が、ふわん、と全身を包み込む。タマゴの黄身の色に変わった太陽から目を外して、村瀬さんに言われた対岸の山々を見た。  ――すごい……。  深い緑色の山肌に、太陽から直線に光の当たった部分だけが、まるで紅葉したように朱色の帯が出来て、丁度、それにかかったマンション群の壁がキラキラと太陽の光を反射して跳ね返していた。  ニンゲンたちの人造の星は明るくなった空の下、次々に消えていく。代わりに灯りの無くなった街を、海から昇る暖かな光がベールを被せるように覆っていった。  やがて光は徐々に広がりを見せて、すっかり夜を追い出していった。 「これから太陽が海の上を走るぞ」  隣の村瀬さんが腕を伸ばす。その指の先の海は、さっきの光の帯が写っている。 「走る、って?」  まあ、見とれ、と言うと村瀬さんは手すりに両肘をついて黙った。俺も村瀬さんに習って手すりに手をつくと、光の帯が照らす景色を眺めた。  寒い風が吹く中を二人並んで景色を眺めていると、やがて山々を照らしていた光が少しずつ海へと移動し始めた。  大きなスポットライトは山から街へ、そして埋め立てられた海岸沿いへと伝い、海を照らし始める。そして、どんどんと太陽が昇ってきた島へと近づいていった。 「太陽が昇っていくから?」 「そうじゃ。太陽の光が山から海面を走っているように見えんか?」  夜明けを告げた島の方を見ると、尾根からすっかり離れた太陽が眩しく輝きながら天空高く駆け上がっていた。  銀色の海に映された、金色の太陽の影――。  ゆらゆらと波に揺れながら、ぽつぽつ見える牡蠣イカダと浮かぶ島々を際立たせている。  さっきまで冷たい風に体が冷えきっていたのに、今は空から注ぐ暖かな光がじんわりと温めてくれる。それは昨夜、村瀬さんが隣に座ってくれたときに感じた、彼の体温と同じだった。
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