君がくれた世界

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 多分、照れ臭そうな表情をしているんだろうな。だけど、まだ目のチカチカが残っていて部分的にしか彼の顔が見られない。 「それからなぜか、お前の方から俺に話しかけてきて。最初は随分年下のガキに何、本気になってんだと思ったけれど、まあ、それ以上にお前が魅力的だったんだな」 「魅力的……、だった?」 「そうじゃ。でないと、終電を乗り過ごした奴をわざわざ家まで送ったりなんかせんよ」  また笑い声がする。 「別に好きになったから、どうこうしようとは思わなかったけれどな。お前は未成年だし普通の高校生だし。多分、年上の男が珍しくて甘えてくるのだと思っていたんだ」  まさか、告白されるとはなあ、と村瀬さんが言った。 「それで判ったんだ。きっと俺もお前も一緒に恋に落ちたから、互いの世界に入り込めたんだってな」  一緒に恋に落ちたから――。  村瀬さんも俺を好きになったから、俺は村瀬さんの顔が分かるようになった――。 「まあ、勝手な憶測じゃけど。でも、結構、的は得とるのかもな」  互いの想いが繋がったから、混ざり合った世界で二人は相手を認識できた。これは、とても凄いことなのかも知れない。だけど、彼に告白されてもどこかで嘘だと言う自分がいる。俺に同情して、こんなことを言ってくれているんじゃ……。 「まだ不安そうな顔しとるのう」  村瀬さんが、やれやれと言った雰囲気を醸し出す。俺の肩から手を離すと腰に当てて、 「それじゃ、もう一つぶっちゃけたるわ。俺が旅館を継がんかった理由じゃ」  旅館を継がなかった理由? 「お前がしつこく、捨てえ、捨てえ、と言っとるあのヘルメットな。あれ、元カノのじゃ無くて、元カレ、の」  元カレ? 彼って、男……?  自分でも顔の筋肉が驚きに移行しているのが解った。 「おおっ、ビックリしとる」  村瀬さんが俺を見て面白そうに言う。 「だから俺が家業を継いだら跡が続かん。なので、跡継ぎは姉夫婦に任せた」  と言うわけだから安心せえ、と、村瀬さんがまた俺の両肩にポンッと手を置いた。何だか、急展開過ぎて頭がついていけない。 「でも、仕事は、車掌は辞めるんだよね……?」  は? と村瀬さんが聞き返す。 「だって、さっき下のお寺で、そろそろ潮時だって……」
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