君がくれた世界

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 素直に謝る山内に、俺も自分の隠していた特性を打ち明けた。最初は少し疑っていたけれど、真面目に打ち明けた俺のことを山内は信じてくれた。互いに胸につかえていたものを吐き出してスッキリしたと思っていたら、いきなり山内から、 「小泉。実は……、俺は、お前のことが好きなんじゃっ!」 と告白された。ええっ、と驚いたけれど、  ――あのガキも少し目障りじゃ。  弥山を下りる時に、俺の手を取りながら言った村瀬さんの台詞を思い出す。あれは、山内に今回の事をちゃんと謝る、と話した時だ。 「俺の前で、これみよがしにカズトにベタベタと引っついてから。彼と友だち付き合いをするんなら、十分に気ぃつけるんで、カズト」  謝れって言ったのは村瀬さんの方なのに、なに嫉妬じみたことを言ってんの?  その時は少しそれがうれしかったけれど、村瀬さんはこれを心配していたのか……。  相変わらずだらしなくネクタイを緩めた首元を真っ赤にして、ちょっと震えている山内を見ていると、あの時の自分を思い出した。村瀬さんに初めて想いをぶつけた時の。  俺は山内を真っ直ぐに見つめる。さっきから、山内は落ち着きが無い。そうだよな。判るよ、その気持ち。だけど――。 「ありがとう、山内。でも……、俺にはもう好きな人がいるから」  俺の言葉に山内は一瞬動きを止めて、やがて大きく息を吐き出した。今、山内はどんな顔をしているのだろう。泣きそうなのかな、それとも、怒っているのかな……。 「……そうか。分かった」  しばらくして聴こえてきた山内の声は、なぜかとても明るく響いた。そして、「あーっ! 振られたっ!」と、いつものおどけた調子で大きな声を出すと、 「大学は離れてしもうたけれど、これからも友だちとしてよろしくな、小泉」  山内から差し出された右手を握った。ぐっと強くその手を握り返されて、 「でも、アイツと別れた時には俺と付き合ってくれな」 と、念を押された。
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